『ほんとうのリーダーのみつけかた』 梨木香歩

 

ほんとうのリーダーのみつけかた

ほんとうのリーダーのみつけかた

 

 

身の回りは、いろいろと気になることばかりだ。それが日増しに増えていくようで、いちいち、おかしいと感じる気持ちさえ、麻痺してしまいそうな気がする。
梨木香歩さんのあとについて、同調圧力、言葉の無力化・空洞化など、日ごろからおかしいな、と思うことの根っこに何があるか、また、ほうっておいたらどうなっていくのだろうか、と、考えていく。
この小さな本は、この時代を手さぐりで歩いていくための小さな灯りのようだ。


わたしは、この本のタイトルを目にしたとき、最初、ほんとうのリーダーって、つまりそれは自分だよ、って話になるんだろうなあ、と予想した。
その意味も考えず、聞こえのいい言葉(「ほんとうのリーダーって自分!」とか)を思いつき、飛びついたのだった。今、それがとても恥ずかしい。
「その言葉の本当の意味も考えず……型どおりにそれを繰り返して」言葉を陳腐なものに変えることを、わたしもやっていた。言葉を大切にしていなかった。


言葉を大切にする人は、きっと本当に人を大切にすることを知っているのではないか。
「自分の気持ちにふさわしい言葉を、丁寧に選ぶ」地道な作業は、人を大切にすることにつながるのではないか。


わたしという入れ物の中には無数の「私」がいる。
この「私」たちの中には、過去、何度も「やっちまった」と呟いてきた「私」もたくさんいる。
そうした「チーム私」のリーダーが、この本のタイトル「ほんとうのリーダー」なのだ。「自分のなかの目」でもある、という。
「だれよりもあなたの事情を知っている」
「あなたの人生の歴史についてもだれよりも知っている」
「しかも、あなたの味方」
「いつだって、あなたの側に立って考えてくれている」
などなど……
いるよね、小さな声だけど。わさわさしたたくさんの声の中に、ちゃんといる。
そして、何よりも「あなたの味方」という言葉に、はっとする。
わたしの味方。どんなに情けないチームであっても、必ず味方でいてくれるリーダー。そういうリーダーがリーダーでいるなら、いたらないチームも、なんとかやっていける。


君たちはどう生きるか』の吉野源三郎は、「「人間を信じる」、何度でも。戦後、荒れ果てた人心を目の当たりにしてなおそう呟いた」そうだ。
この「人間を信じる」は、この本を今という時に私たちに手渡してくれた梨木香歩さん自身の言葉でもあると思う。
信じて語ってくれた数々の言葉を、「チーム私」はリーダーとともに大切に読んでいく。