『銀河鉄道の夜』 宮沢賢治

 

銀河鉄道の夜

銀河鉄道の夜

  • 作者:宮沢 賢治
  • 発売日: 1990/12/14
  • メディア: 文庫
 

 ★

「やまなし」「いちょうの実」「よだかの星」「ひかりの素足」「風の又三郎」「銀河鉄道の夜」の六編が収録されている。


中心に小さな赤い火を宿した、砂のような水晶の一粒一粒。
銀河鉄道の夜』の、星の中で出会う、小さな輝きは、この本の中の六つの短編に宿る子どもたち一人一人のように感じる。


クラムボンはわらったよ」「ぷかぷかわらったよ」意味など考えなくても、唱えるだけで楽しくなってしまう言葉ってある。そうやって無邪気に過ごしていた『やまなし』の川底の子蟹たちの日々は、突然に破られる。激しい衝撃とともに外の世界からやってきたのは、魚を捕まえる恐ろしいカワセミだったり、いずれ美味しいお酒になるやまなしの実だったりする。
なんてことのない子どもの日は、きっとそうやって、ちょっとずつ破られていくのだろう。


大好きな『風の又三郎』は、遊んで遊んで遊ぶ、山の子どもたちの群像だ。彼らの中に、風と一緒に、ひらり飛び込んできたのは、転校生の三郎(又三郎)
日が暮れるまで、ただひたすらに遊びまわる子どもたちはまぶしいけれど、悲しみが隠れている。
親の仕事の都合で、町から町へ短い期間にてんてんとしていく少年は、去っていくときも、友だちにさよならを言う暇もない。
元気で時々憎たらしい子どもたちの身体を透かして、小さな赤い火が見える。さびしくて、美しい小さな灯。


子どもにはわかりえない様々な理由で、去っていく者と置いていかれる者。わかっていても、さびしくても、悲しくても、どうしようもない。
だから、互いに、せめて何か挨拶を送りたい、送れたら、と思う。(その気持ちに手を貸すのは、もしかしたら、目に見えない自然のなかの何かなのだろう。)
風が変わることで。
同じ列車で旅することで。
あるいは、その安らかな笑みで……


巻末の武田鉄矢さんの「鑑賞」がよかった。山の中腹に寝そべって、二人の子とともに、冬の素晴らしい星空を眺めた時の思い出。星空を見ながら、宮沢賢治に思いを馳せる。
読みながら、星のなかに落ちていく夜鷹のように、わたしも星のなかに落ちていく。すいこまれていく。思わずどこかにつかまりたくなりながら、武田鉄矢さんの星空に、私もいた。