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ともちゃんちにあそびにいったら誰もいなかったので……
なっちゃんは、ひとりで河原のほうへ出かけて行った。
「なっちゃんは くずのつるが すき」
「なっちゃんは ひまわりの はなが すき」
「なっちゃんは あおさぎが すき」
「なっちゃんは たなかさんちの にわが すき」
なっちゃんが好きな夏のいろいろ。
落ちて、静かに死んでいる蝉も、お墓のお供えにたかったアリたちも、雷が鳴って雨でずぶぬれになることも、みんな、なっちゃんの好きな夏だ。
片山健さんの描く夏がいい。
獰猛なくらいに茂る草たちの匂い、汗ばんだ肌に草のさきっぽがちくちくする感触、川から渡ってくる風の涼しさも、みんな絵のなかから立ち上がってくる。
子どもの頃の夏の一日(サルビアのみつを吸ったり、オシロイバナでお化粧したり)を思い出している。
今も、むかしも、同じように「せいばんもろこしが ほを ゆすって」いる。
「せいたかあわだちそうが ぐんぐん のび」て、
「おおあれちのぎくが ゆれる」。
すべてのものを覆い隠そうと躍起になっているのは「かなむぐら へくそかずら やぶからし」
いまや、八月の平均気温は十度もあがってしまったというのに。
今年の夏は遅く来た。
猛暑をどう乗り越えればいいのだろう、とうんざりしているうちに、もう、お盆が過ぎている。
じき八月が終わるよ、と気がついて、まってまって、と、焦り始めている。
相変わらず厳しい暑さだけれど、わたしの好きな夏もたくさんある。
さっき洗った洗濯物は、もう乾いて、ぱりぱりのひなたの匂い。
水を撒くホースの先に虹がたつ。犬が喜んで追いかける。
ツクツクボウシがなきはじめて、そろそろお昼だ。