『吹部!第二楽章』 赤澤竜也

 

吹部! 第二楽章 (角川文庫)

吹部! 第二楽章 (角川文庫)

  • 作者:赤澤 竜也
  • 発売日: 2020/06/12
  • メディア: 文庫
 

 

『吹部!』の続編。
顧問のミタセンのもとで、吹奏楽コンクールに向けてまとまっていた吹部のメンバーたちは揃って、四月を迎え、一学年進んだ。
相変わらず物語の語り手をつとめる二人、部長の鏑木沙耶と、音楽エリートの西大寺宏敦も、三年生になった。
昨年の吹部の活躍の賜物か、入部希望の一年生も多数いて、ますます充実しそう。


と思っていたのだが、なんと校長の要請により、吹部は座奏とともにマーチングのコンクールも目指すことになってしまった。ミタセンはへそをまげてしまった。
マーチングに意欲満々の新任の副顧問カモティと、マーティングなんかやらないよのミタセンは、どちらも協力する気なし。
ミタセンだけでも、あしらうのが大変なのに、とびきり個性的なのがもう一人現れて、二人の間を行ったり来たりの部長の沙耶はどんどん疲れてくる。気がつけば、部員たちも、いつのまにか分断していた。


個性的すぎて妖怪みたいなミタセンとカモティだけど、高校生からみたら、先生ってそんな感じなのかもしれない。
先生の指導力を信頼していても、正面きってそうは言いづらいんじゃないか。せめて、師を思い切り戯画化して笑い飛ばすことが、生徒としての最高の賛辞なのではないだろうか。
それだから、ミタセンやカモティのへんてこさの描写には、こっそりと賛辞が隠されている、と感じる。そもそも、どちらも、専門分野においては突出した指導力を発揮しているし、彼らが本気になれば、部員たちは本気で答えようとがんばるのだから。


分断していく部のなかで沙耶は元気がない。
部長って何だろう。
人間関係のこと。変わってしまった友人関係や、ほのかな恋心の持っていき場。
それから進路。大学入試は目前なのだ。自分はいったいどこに何をしに向かったらいいのか。
沙耶は悩む。
一方、吹っ切れたように音大受験をめざしてまっすぐ進んでいるように見える宏敦だったが、いつの間にか自分が部のなかで微妙な立場に置かれてしまったことに悩んでいた。
部員たちそれぞれが、悩んでいる。


前作で、大きな円を描くようにまとまった吹部だったが、ひとりひとりがさらに飛躍するために、この分断は、きっと意味がある。
集団での演奏に向けて、ひとりひとりが懸命に個人練習しているような感じだ。あるいは、集団での演奏が、個人個人の集まりであるというあたりまえのことをもう一度確認するような感じ。


それぞれの思いを音に乗せて、彼らの演奏が始まる。
昨年、二年生の沙耶たちを支えてくれた先輩たちが卒業していったように、沙耶たちの舞台もとうとう最後だ
このメンバーで演奏する、これが最後の舞台。
聞かせてね。聞いているね。いっしょに楽しんでいる。