『彼の手は語りつぐ』 パトリシア・ポラッコ

 

彼の手は語りつぐ

彼の手は語りつぐ

 

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「少年がひとり、戦争にいく。」
「そして、またひとり。」


この絵本は、南北戦争当時15歳だったシェルダン・ラッセル・カーティスが体験した実話で、後にシェルダンから娘へ、娘から孫へと語り継がれた言葉をできるかぎり再現したものだ。


ジョージア州の草原で、深い傷を負っておきざりにされた白い肌のシェルダンは、二日間もうろうとした意識のまま横たわっていた。彼を救ったのはマホガニー色の肌の少年ピンクスだった。ピンクスはシュルダンを背負い、困難な道を辿って自分の生家に連れ帰る。
ピンクスの母モー・モー・ベイに温かく迎えられ、手厚く介護され、シェルダンは元気を取り戻す。


二人とも北軍の兵士だった。
二人とも、南北戦争で散々な目にあったのだろうとは思うが、その「散々」の内容は、肌の色が白いか黒いか、というだけで、大きな違いがあった。
シェルダンは、もともと輸送係で、銃を運ぶことはなかったが、やがて「ぼくたちのような子どもまで」銃を運ぶことになったと、語る。
ピンクスの連隊は、黒人の連隊で、銃もなかった。あってもメキシコ戦争時代の古いもので壊れていたり、しょっちゅう暴発したりした。彼らは棒やハンマーで戦っていたのだ、という。


ピンクスは、早く戦線に戻りたいと思っていた。
ピンクスは奴隷だったのだ。
「おれの戦争だからだよ。セイ、おまえの戦争でもある」
「ねえ母さん、この戦争でおれたちが勝たないことには、この国の病気(奴隷制の事)は決して治らないんだ」


この絵本に描かれたシェルダン(セイ)と一緒の時のピンクスの姿と、南軍の男たちのそばにいるときのピンクスの姿は、その表情、姿勢で、別人のように見えることも、印象に残る。
シェルダンにいきいきと夢を語るピンクスは、堂々として頼もしかった。
しかし、別の時、あの別のとき、肩をすぼめた彼は、まさに「奴隷」に見えたこと。


それから……。
表紙の、絡まり合うように握られた三つの手……


シェルダンの傷を癒すための数日間は、つかの間の、それは素晴らしい休暇みたいだった。楽園みたいだった。
二人が語る沢山の言葉や沢山の時間、そして、モー・モー・ベイのおおらかな見守りが、読み終えた後も、懐かしくよみがえってくるのだ。
ことに、読むことについて。
読めなかったシェルダンに、ピンクスが読み方を教える、いつか必ず、と約束したことが、心に残る。白い肌とマホガニー色の肌の二人は、かけがえのない親友になっていた。
ピンクスは「だんな」に読み方をならったのだ。毎日、朗読をさせるために、と。
読むことができるようになったおかげで、ピンクスは、いろいろなことを知ることができた。
「たとえ奴隷でも、自分のほんとうの主人は、自分以外にはいないっていうこと」
ピンクスの母は、聖書を手にとっていう。
「エイリーのだんなは、紙がしゃべることを教えてくれた」
ピンクスが聖書を朗読する夕べの美しさがいつまでも心に残る。