『嵐にいななく』L.S.マシューズ/三辺律子(訳)

 

嵐にいななく (児童単行本)

嵐にいななく (児童単行本)

 

いきなり、真夜中の洪水警報から物語は始まる。
ジャックとお母さんは避難準備をしている。
どうなってしまうのだろうと思っていると……


次のページは、18か月後になっていた。
ジャック一家は別の村に移り住んで、暮らしていた。
ある朝、隣家のマイケルの日記がジャックのもとに届けられる。
18カ月前、ジャック一家が隣に引っ越してきた日から、日記は始まっていた。
マイケルは、重病の後遺症で歩けなくなり、車いすの生活だった。
訪ねてくる友だちもかいない彼は、退屈しのぎに、二階の窓から外を眺めていた。
その日、引っ越し荷物を積んだ幌馬車がやってくるのが見えた。
その馬車が、空き家だった隣家の前にとまり、両親とともに、男の子がおりてきたことが書かれていた。


その男の子は自分だ、とジャックは、その日のことを思い出す。
マイケルが、ジャックの初めての友達、親友になったことも。
物語は、マイケルの日記と、それに伴うジャックの回想とが、それぞれの視点で交互に補完し合いながら進む。


エネルギー資源が足りていない世界。電気は貴重だし、自動車や携帯電話は、個人で所有することができない。
教育も不充分。学校はあるにはあるが、教師の確保が難しく、不安定。
ペットを飼うことも禁止だ。食用、作業用としての家畜を持つことは許されているが、許可が必要だ。
「もうこの星にはすべての生き物が生きる場所はない」
私たちが迎える近未来、なのだろうか。割合平和な村の風景には、なんとはなしの不安が混ざっている。それは、この世界のありようをあえて説明せず、少しずつ、ぼうっと見せるような、そういう物語のせいかもしれない。


この村にひっこしてきてすぐ、ジャックは、処分されるしかない馬に出会い、惹きつけられる。
彼は、この馬を作業馬として認めてもらうため、訓練し始める。マイケルや、運搬業者のサイモンさんに手伝ってもらいながら。


けれども、馬(名前はバン)は、どうやら、ある問題を抱えているらしい。
マイケルは、ジャックもまた問題を抱えている事に気がつく。
そして、マイケル自身も。
問題、と書いてしまったが、それぞれに事情はまるっきり違っていて、一言で言えるようなものではないのだが。
バンにも、ジャックにも、マイケルにも、共通するのは孤独と不安だ。そこから生まれてくる、恐怖だ。
三者とも寂しい。誰も彼らの孤独を気づけない。
そういう三者だったから、互いの寂しさや不安がよくわかったのかもしれなかった。相手が何を求めているのかも。
ジャックは、バンの不安を理解しようとし、マイケルは、ジャックのつまずきに寄り添う。
助けられ、助けながら、ともに成長するジャックたち。
やがて、自信をもって歩きだすまでを、細やかに、ダイナミックに物語は描きだす。


喜ばしい気持ちで、ここまで読み、これでおしまいでいいと思った。
でも、それだけじゃなかった。


あっと驚かされたのは、その後(最後の数ページ)だ。
突然で、最初は、どういうことか、わからなかった。それがわかったとき、自分の思い込みに気づかされた。
そして、こうだと思いこんで読んでいた物語がすっかり変わってしまう。
白黒の絵に、ふいに色が溢れたよう。
こみ上げてくる思い、言葉がたくさんあるのだけれど、これ以上は駄目、言えない。
ああ、もう一度最初から読み直さなくては。