『ベストマン』 リチャード・ペック/千葉茂樹(訳)

 

ベストマン (児童単行本)

ベストマン (児童単行本)

 

 

「ぼく」ことアーチャーは言う。
「ぼくは、結婚式で小学一年生をスタートして、べつの結婚式で六年生を終えた」と。
六歳のときの、いとこの結婚式は、最悪だった。リングベアラーを務め、散々な目にあった。出席者みんなが一生忘れられないくらいの。
けれども、親友リネットに出会ったのもこのときだった。
そして、最高だった、というのが十二歳のときに招かれた結婚式。
アーチャーの言う「ふたつの結婚式のあいだの物語」として、彼の六歳から十二歳になるまで(小学校時代)の、日常生活が語り起こされる。


タイトルのベストマンというのは、結婚式での、花婿の付き添い役のことで、たいてい花婿の親友が務めるのだそうだ。
同時に、アーチャーにとっての文字通りのベストマン、理想の、なりたいと思っている人たちのことでもある。
マギルおじいちゃん、お父さん、ポールおじさん、それから……
どの人たちもそれぞれに違った意味で、違った方面でとても素敵な大人たちなのだ。
小学生のアーチャーは、自分のこと、友だちのこと、さまざまなでっぱりにぶつかりながら大きくなる。
そのときに、それぞれのベストマンたちが、それとなく彼に寄り添い、助言したり、力を貸してくれたりするのだ。スマートに。
6年間の物語のなかで、もっとも心に残ったのは、この言葉。
「自分がなにものだかもわかっていないくせに、他人を自分のようにさせたがるような人間には近寄らない。」
「人というのは、自分の恐怖の元をラベルにして、他人の顔に貼りたがるものなんです」


ところで、そんなベストマンたち、一様におとなしくてお行儀が良すぎるように思う。
それは、たぶん、女たちの勢いの良さに押されて、そう見えるのだろう。
わたしは、強烈な個性の持ち主で現代の魔女(に違いない)、マギルおばあちゃんが一番好きだ。完全な脇役に徹している彼女の活躍を、もっともっと読みたかった。(いいや、たぶん、読んでいるんだ、ベックの、別の時代の別の物語の中で。どれも最高にかっこよくて、最高に頼りになるイジワルおばあちゃんたち)


作者リチャード・ベックは、2018年5月、84歳で亡くなっている。
この物語は、リチャード・ベックの遺作なのだそうだ。
最初から最後まで賑やかで、ことに後半は、パーティに次ぐパーティのこの物語は、作者自身が主催する最高のお別れセレモニーのようにも思える。
朗らかに笑いながら去っていかれる姿を思い描いている。
もういつまで待っても新しい物語は読めないのだと思うとさびしいけれど、これまでに三〇冊以上の作品を生み出している、ということなので、まだの本たち、いつか、翻訳されたらいいなあ、と思っている。