『冬の本』

 

 

 

さまざまな分野で活躍する84人の執筆者が、「『冬の本』という一つの言葉をめぐって、そこから発想できることを自由に書いて」いる、小さな本。
それぞれが、それぞれにとってのたいせつな一冊の冬の本を挙げて語っているから、ブックガイドにもなっている。
でも、何よりも、84人が語る84通りの冬のイメージ(なんと多彩)に魅了された。それは、そこに本があることで完成する風景なのだ。
 

その本を手にとるたびに、(その読書ゆかりの)「車中から眺めた(冬の)夕焼け」を思い出す人がいる。
その本の作者の描く冬は「酒場で、いい話を聞いているときのように、温かい」という人がいる。
決していい気持ちばかりにさせてくれる本ではない、その本のことを、「『本当がぎっちり詰まっている」から「冬に身をさらしたくなる時に開く」という人がいる。
「自分が『冬の本』と呼びたくなる本は、暖炉代わりの暖かい本であっただけでなく、どの本も、自分が立っているところより一段上の事情を説いてくれるものだった」という人がいる。
待つことで終わる短編集を読み、「結末において、人は春を待っている。ささやかな希望とともに」という人がいる。
……まだまだ。心に残る「冬の本」の言葉はたくさんある。
みんな違うが、いずれも何かどっしりと腰のすわった読書、と感じた。
春でも夏でも秋でもない、冬に読む本には、共通するイメージもあると思う。


私にとっての冬の本を上げるとしたら、どの本にしようか。その本の向こうに見える冬景色をどんなふうに語ってみようか、そんなことを考えるのも楽しい。


冬の初めにこの本を手に入れて、つまみ食いをするように、あちこちちょこちょこと読んでいた。
落ち着いて本を読むゆとりがない時には、こんな読み方ができる本がありがたかった。
好きな執筆者のページを探したり、印象的な言葉を繰り返し読んだりしているうちに、いつのまにか、まだ読んだことのないぺージがなくなっていたので、そろそろ覚書程度に感想を書いておきたい、と思った。