『生きるか死ぬかの町長選挙』 ジャナ・デリオン/島村浩子(訳)

 

生きるか死ぬかの町長選挙 (創元推理文庫)

生きるか死ぬかの町長選挙 (創元推理文庫)

 

ワニ町シリーズ、三冊目。
任務ちゅうにヘマをやらかして命を狙われる羽目に陥ったCIA工作員フォーチュンは、一か月間、身を隠すよう指令を受けて、ルイジアナ州の静かな田舎町シンフルに潜伏した。なるべく土地の人と個人的なかかわりをもたないように、めだたないように、静かに暮らす必要があった。
それなのに……
フォーチュンが悪いわけでは(たぶん)ない。シンフルに移り住んでわずか二週間しかたっていないのに、これで三回目の殺人事件に巻き込まれるなんて。
しかも、町の婦人会SLSのナンバーワンとツーのおばあちゃんアイダ・ベルとガーティを筆頭に、あちこちで友情が芽生え始める。そのうえ、きわめてマズイ相手、保安官助手カーターとのあいだに恋の兆し(?)まで。


今回殺されたのは、町長選挙立候補者アイダ・ベルの対立候補テッドである。
アイダ・ベルは、彼女に不利な証拠が見つかったことにより、容疑者にされてしまう。
友だちを救うべく、フォーチュンはガーティとともに、独自の調査を始める。ときどき、危険をともなったり、非合法であったり(むしろ犯罪であると言おう)の結果、みえてきたのは、思いがけない事件の背景である。とはいえ、そういう情報を手に入れた経緯を考えると、保安官事務所に通報することもできなくて……


一巻から始まり、日々刻々とこの町に馴染んでいくフォーチュンを見ながら、このままでは元の仕事に戻れなくなるよと、心配していたつもりだった。けれども、そうじゃないことがわかった。心配なのは、むしろ彼女が元の仕事に戻らなければならない日が来ること。戻したくないのだ。戻らないでほしいのだ。
わたしはこの町のフォーチュンが好きだ。
この本を電車の中で読む時には、三人の魔女(と呼びたい)の珍チームプレーや会話に、吹きださないですむように腹筋をぴくぴくさせながら耐えてきた。
あれこれのハチャメチャに互いに呆れながらも、さらなるハチャメチャさでフォローし合う三人を、最高のチームだと思っている。
だけど、フォーチュンに、帰らないなんて選択肢がありうるのだろうか。
フォーチュンは実在する人物に偽装している。彼女が今の姿でこの町にいられるのは一か月限定なのだ。
彼女を仇として狙う暗殺者たちの脅威もある。
フォーチュンはいう。
「生まれて初めて本当の友達ができたいま、すべてがややこしくなった。」
悩ましいこの事態は今後どうなるのだろうか。


そして、この町シンフルの印象も少しずつ変わってきている。
ここは、本当に静かで退屈な田舎町なのだろうか。
静かに暮らす町の人々(たとえば、見た目キリストと同年代のご老人、とか)の別の顔に、何度驚かされたことか。(これから先きっと驚かされるに違いないと、個人的にあたりをつけている住人もいるのである)
町は人の集まりである。
「シンフルには隠れた秘密がいくつもあり、それがいまそろって表面へ浮上してきているように見える。そういう隠れた秘密がわたし自身の秘密を暴く結果にならないように、ひたすら祈るばかりだ」
とフォーチュンは言う。
それが今後の物語の課題の一つになるのかな。

 

 

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