『(物語)たくさんのお月さま』 ジェームズ・サーバー(作)ルイス・スロボドキン(絵)/なかがわちひろ(訳)

 

物語 たくさんのお月さま (児童書)

物語 たくさんのお月さま (児童書)

 

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「私が知っているすべてのもの――私の人生、私が愛したもの、海――それらすべての世界が、いま私の親指の後ろに隠れてしまう」
月からの眺め「地球の出」を前にして、アポロ8号の宇宙飛行士のひとりジェイムズ・ラヴェルが言った言葉だそうだが、これを読むと、わたしは、絵本『たくさんのお月さま』を思い出してしまう。


きいちごのタルトを食べ過ぎて、病気になってしまったレノア姫は、「なにか、ほしいものはあるかい?」と尋ねる父王に、答えます。
「お月さまがほしいな。お月さまをもらったら、きっとげんきになるとおもうの」
そこで、王様は、大臣、おかかえの魔法使い、数学の大先生を次々に呼び出し、月をとってくるように言う。
三者は、いかに優秀な自分であってもそんなことはできないのだと言いたいがために、これまで王様のために骨折ってきた御用の一覧を読み上げるのだけれど、この一覧がおもしろい。
なかにはそんな難しい仕事をするよりも、月をとってくる方がやさしいのではないか、と思うようなのもあるのだが、それほどに月をとってくることは難しい仕事であるらしいのだ。
その道の達人、一流の人たちは畏まる。
失礼ながら専門バカという言葉もあるのである。(物語を楽しみつつ、自分の石頭ぶりを思って冷や汗かいています)


月とは何者で、どこにあって、どのくらい大きいかなど、王様はさっぱり興味ない。ただ、愛しい娘がほしがっているからには、どんなものであろうと、とってやりたいのだ。無理、といわれたら、とってもとっても辛いのだ。
このしょうもない親ばか(いっしょうけんめい親ばかで)好きだなあと思うのだ。


さて、姫はお月さまを手にいれたのだろうか。
どうやって? だれがとってきたのだろうか?
その答えの一部が、タイトルの「たくさんのお月さま」である。ふわりと心軽くなる。



もともと大型絵本だったこの本、絵本にしては文字数が多く読みにくいという声を受けて、幼児向けの読み物としてリフォームされたのだそうです。
スロボドキンさんの絵がちっちゃくなってしまったのはもったいない気がするけれど、こちらは文字から物語を味わう本ですものね。
小さな手になじみやすい大きさです。縦書きの文章は読みやすいしね。