『ゾウ』ジェニ・デズモンド /福本由紀子(訳)

 

ゾウ

ゾウ

 

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 ゾウは、現在、世界じゅうに三種類しかいない。
アフリカゾウは大きい。アジアゾウは少し小さい。
違うのは大きさだけではない。並べてみると、身体の特徴がずいぶん違うことに気がつく。
大きさ、体重、食べ物。
ゾウたちが、あの重いからだで軽やかに歩くことができるのは、足に秘密があること。
暑いときには、大きな耳を広げて(鳥が羽を広げるみたいだと思った)風を起こす。
牙のこと。
群れのこと。雌たちの群れ、巣立っていく雄の子ゾウのこと。
水や食べ物を求めて歩く長い長い道のこと。
そして、やってくる最後の日のゾウのこと。よりそうほかのゾウたちのこと。
ゾウのいろいろなことを知る。知らなかったことをたくさん知る。
圧倒されるのは、見開きいっぱいの大きな大きなゾウの顔。静かにこちらをみつめている。


表紙のゾウの斜め後ろに、赤い紙の冠を被った男の子が描かれているが、実は、この絵本は、この男の子が読んでいる一冊の本なのだ。
お気に入りのゾウの本を男の子は読んでいる。
どんな風に読んでいるかといったら……
ほら、読み始めた男の子の部屋の窓の外に、長い鼻の先が見え始める。(アフリカゾウアジアゾウの鼻だ、とこの本を読んだあとだとわかる)
ページをめくるごとに、ゾウの後ろや前を、踊るような足取りでついていく男の子がいる。
いっしょに水浴びをしたりもする。
おしまいには、夜の草原に立つゾウの鼻を抱きしめている。目を閉じて、頬をぴったりと寄せながら。
この子にとって(ほかのだれにとっても)本を読むって、きっとそういうことなんだ。
意識もしないまま、本のなかに入りこんで、ゾウの群れのなかに一緒にいる。
わたしは、絵本のなかにいる小さな男の子の姿に、心揺さぶられる。この子がここにいる幸せ。


ゾウは絶滅の危機にある。
「作者より」という前書きには、野生のゾウたちが置かれた厳しい現実について書かれている。短い文章だけれど、読みごたえがある。
それは、こんな風に締めくくられる。
「ゾウはむれで生活し、家族の絆が強い、感情の豊かな生きものです。もし、ゾウが元気でふえていくことをのぞむなら、わたしたちはゾウを大切にし、ゾウの生きる場所を守っていく努力をしなくてはなりません」