『言葉の色彩と魔法』 ラフィク・シャミ;ロートレープ/松永美穂(訳)

 

言葉の色彩と魔法

言葉の色彩と魔法

 

 

短いものなら1ページの半分くらい、長くても3ぺージ弱の作品が59編。作者は、ラフィク・シャミ。1972年にシリアを亡命し、ドイツで作家となった。
作品ごとに色彩鮮やかな美しい挿画を描いているのはシャミの妻であり画家であるロート・レープ。
解説に書かれているとおり、この本は「とても贅沢な作りの本」なのだ。


内容は、くすっと笑える小噺や、ぴりりとスパイスの効いた風刺や皮肉、ユーモアに満ちた家族やふるさとへの思い、子ども時代への憧憬、季節や風景を詠った散文、エッセイなど、さまざまだ。
ささやかな幸福を感じる話、くすりと笑わせてくれるもの、ただ沁みるように美しい言葉……どの作品も極上の読後感を味わえる。


ゆっくり読むのがいい、と思う。隙間の時間にひとつ、ふたつ、と、長い時間をかけて、楽しみに読む。
どこでも、ぱっと開いたページから、繰り返し読むのもいい。語りの魔法使いシャミは、いつでも、どのページを開いても、そこから、たちまち別世界に連れていってくれる。


わたしは、子ども時代について綴った作品がことに好きだ。
「ぼくの子ども時代、ダマスカスには一か所も遊園地がなかった。町全体が、ぼくらの大きな冒険遊園地だったのだ」(『人生の道』より)
作者のなかには、活気あふれるダマスカスがある。せつないくらいに明るい光に満たされて。
町のあちこちの路地裏をかけまわり、遊びまわる子どもたちの声が聞こえる。
街路のどん詰まりの住まいには、父がいて母がいる。父のことは尊敬していたが、ときには、機嫌を損ねないよう、気を遣わなければならなかった。
お話上手の絶妙なチームワークの祖父と祖母がいて、ちょっと突出した親戚がいる。
短い文章には、故郷への深い愛情が滲んでいる。