『日曜の夜は出たくない』 倉知淳

 

 

これが、猫丸先輩シリーズの一作めで、倉知淳さんの(本格的)デビュー作なのだそうだ。
とうとう会えたよ、噂に聞いていた名探偵、猫丸先輩。


年齢は三十歳を少し越えたところ。
小柄な身体に黒いだぶだぶの上着を羽織った、ふっさりした前髪を眉の下まで垂らした、仔猫みたいなまん丸い目をした、人物。
偉そうな物言いに、周りの人びとは辟易としているけれど、どこか憎めない。
そのアクの強い風貌、人柄、一度会ったら(読んだら)忘れられない。
それなのに、なんともとらえどころがないのだ。
そもそも、「猫丸」というのは、姓なのか名なのか、あだ名なのか、さっぱりわからない。どこに住んでどのように暮らしをたてているのかもわからない。
ある時は、アルバイトの船頭、ある時は、劇団の役者、又ある時は、マニアックな博物館の見学者……
七つの短編の、一体今度は、何処から、どんな姿で(と言っても変装とかではない)ひょっこり現れるのか、とそれが、楽しみだった。
物語の語り手が、作品ごとに違うのもおもしろい。


七つの物語は、どれもほのぼのとしたイメージだ。殺人事件なのに。
……探偵をはじめとして、そこにいる関係者たちの人柄によるものだろうか?


七つの短編、と書いたが、付録のような、巻末の二つの短い物語(なのか、エッセイなのか、あるいはあとがきなのか)を読んで、あらま、と思う。
物語の中には、こっそりと仕掛けてあるいくつかの凝った暗号(?)がある。
まさか、そんなしかけが隠されていたなんて。
読者としては、いつのまにか、かくれんぼの鬼になっていたことに気がついた。
そして、初めて、この本、七つの連作(バラバラだと思っていたのに、一続きの連作だったんだ)であることを知ったのだ。
さらに、最後に、ある一作については、猫丸先輩、あれは「僕らしくない推理」だった、と振り返る。聞いているうちに、なんということ、今まで確かにあったはずの「はしご」が、いつのまにか外されていた……
最後の最後まで楽しませてもらった!