『臆病者と呼ばれても――良心的兵役拒否者たちの戦い』 マーカス・セジウィック/金原瑞人,天川佳代子(訳)

 

臆病者と呼ばれても―良心的兵役拒否者たちの戦い

臆病者と呼ばれても―良心的兵役拒否者たちの戦い

 

 

第一次世界大戦が始まったときイギリスの人びとは、輝かしい勝利をおさめて、戦争はすぐに終わるだろうと楽観視していた。
けれども、戦争は長引き、多くの命が失われ、兵士がいよいよ不足してきて、徴兵制が施行された。


倫理的・宗教的な理由から「いつ、いかなるときも人殺しは罪である」という信念を持ち、徴兵に応じなかった17人の若者たちがどんなにおそろしい運命を辿らされたかを、二人の(当時の)若者の証言から辿る。(「良心的兵役拒否者」と呼ばれた彼らの仲間は、当時、イギリス国内には、およそ一万六千人いたそうだ。)


軍の命令に服するようにという再三の命令に従わなかった17人は、非人道的なやり方でフランスの最前線の要塞に送られ、そこで数か月にわたり拷問を受けるが、屈服しなかったため、結果ありきの軍法会議にかけられる。


当時、「良心的兵役拒否者」として、もしも国から認められれば、代替する仕事があてがわれ、兵役につかずに済むこともあった。
けれども、この審査は、とても胡散臭い。
ほとんどいじめのような理屈で、たいていの申し立ては却下される。一方でキツネの狩猟場で働く人が(キツネ狩りに関する仕事は国家的に重要だという理由で!)兵役を免除されたりしたそうだ。


当時の士官たちは、良心的兵役拒否者たちが、信念のために戦っているなどとは思いもしなかった。ただ、自分の身を守ろうとしているだけだと思っていた。
タイトルの「臆病者」という言葉は、彼ら良心的兵役拒否者たちに冠せられた呼び方だ。けれども、最後まで「殺すことにも、殺すことの後押しにも、一切加担しない」という信念を守るために戦って戦い抜いた若者たちを、どうして、そんなふうに呼べるだろうか。


恐ろしいのは、イギリスが、徴兵制のもと、国民をだましだまし戦場に追い込んでいく巧な手順である。この不気味さが、わたしには他人事とは思えなかった。とても怖かった。
巻末の訳者あとがき(2004年7月に書かれたもの)では、ニューヨークのテロ事件、アメリカのイラク攻撃、自衛隊の海外派遣についても触れ、ふたたびの日本での徴兵制の可能性をも指摘する。そして「これは戦争についてだけの本ではない」と言う。「われわれはいつも、何かを選んできているということなのだ」
こまごまとした選択の結果が未来を作り上げる。
戦争に反対し、兵士になるのを拒み続けた青年たちについて、
「そこまでして、そういう人々が守りたかったものはなんなのだろう」と問いかけている。