『すいかのプール』 アンニョン・タル/斉藤真理子(訳)

 

すいかのプール

すいかのプール

 

真夏のあつい日に、熟したすいかが半分に割れて、すいかのプールがプール開きする。
もしも、わたしが、そう、せいぜい二センチくらいの身長になったら、このプールに入れる。


あの麦わら帽子のおじいさんみたいに、黒い種をひとつ、よいしょとどかして、できた穴に半分沈みながら昼寝したい。
浮輪をつけて飛び込むと、「しゃぽん!」と軽い音がする。
足が半分沈むけど、表面を走ることもできちゃう。「さっく さっく さっく」と音がする。
すいかの塊を投げ合って遊ぶ「すいかばくだん」もおもしろそうだし、高い山を作るのも楽しい。
みんなで一緒に足踏み、ぴちゃぴちゃすれば、すいかジュースがたまるのだ。


夏のすいかは、汁気たっぶり、食べておいしいけど、見ているだけでも、ひんやりと気持ちがいい。
でも、すいかがプールになったら、なんて考えたこともなかった。
色もきれいだ。


不思議なことが起こるお話って、どこかに魔法が始まるスイッチがあるものじゃない。
あるいは、本の扉を開く瞬間が、スイッチになることもある。
でも、この絵本。この絵本は不思議。いったいどこから魔法が始まっているのか、わからなくて。


田んぼの中の道を、大きなすいかをかかえたおばあさんとおじいさんが歩いている。
歩きながら話している。
「すいかのプールも そろそろね」
「去年は たねが おおすぎて およぎにくかったからなあ」とか。
なんとシュールな会話だろう。
その二人のそばを、子どもたち(ふつうの身長の子どもです)がわあっとかけていくのだ。彼らは、すいかのプールに一目散に向かっているのである。
……
……まざってる。境界がない。
それは、のびのびと楽しい。
わたしも入りたいな、すいかのプール。

 


★作者のお名前、アンニョン・タルとは、韓国語で「こんにちは、お月様」という意味だそうです。