『秋の蝉』 朽木祥 (『図書』2019年9月号)

 

図書 2019年 09 月号 [雑誌]

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☆エッセイ『秋の蝉』(朽木祥)を読みました。


蜩の声が響き渡る鎌倉の切り通しから、はじまる。
五月に刊行された『月白青船山』では、鎌倉特有の「切り通し」と呼ばれる細道が、大きな役割をもつ。というよりも、このエッセイに書かれているように、「物語のもう一人の主役は鎌倉そのものとも言える」のだ。
「鎌倉は過去も現在も一緒くたになって、死者も生者もともに暮らしているような土地なのだ」
という言葉は、物語の魅力の大半を語っているように思う。


切り通しからはじまって、その界隈にあまりにもさりげなく存在する重要な史跡、古い地名や言い伝えなどの話は、そのまま『月白青船山』のガイドブックのようでもあるし、そのうえで、改めて「鎌倉」という極めて重要な登場人物(もう一人の主人公!)の人物紹介になっている。


「似た感覚を、若い日に暮らした「世界の果ての国」と呼ばれるアイルランドでも度々感じたのを思い出す」とのことばで、話題はゆるやかにアイルランドへと移っていくのだが、著者のいう「似た感覚」「度々感じた」というその感じが、心に残るのだ。それが、きっと朽木祥さんの物語の魅力の源泉なのだから。
鎌倉とアイルランドを緩やかに繋いでいるものは、「過去も現在も一緒くたになって、死者も生者もともに暮らしているような土地」である、と感じられることだろうか……
最後に、本。ぜひとも読んでみたい一冊の本をおみやげのようにいただいた気分で、ほくほくしている。


今頃、鎌倉の切り通しでは、蜩が盛んに鳴いていることだろう。
里山の木々が外側から枝を伸ばしていることだろう。差しのべられた木々の梢を通して、空の色が見えている。
いつか、いつか、この道を歩いてみたい。