『若きウェルテルの悩み』 ゲーテ/高橋義孝(訳)

 

若きウェルテルの悩み (新潮文庫)

若きウェルテルの悩み (新潮文庫)

 

 

ウェルテルはロッタに出会ってすぐに恋に落ちた。
あまりにも偏狭で、あまりにも一途な情熱は、危なっかしくて、はらはらした。(いくらか懐かしくもある)
けれども、ロッタには、婚約者がいるのだ。
それは最初からわかっていたことだった。
ウェルテルが、ロッタの婚約者アルベルトに出会ったときから、この恋は、苦しみに変わる。
アルベルトは、非の打ち所のない、立派な紳士だった。


ウェルテルは不器用だ。
たとえば、間違った場所(自分がいるべきではない場所)に紛れ込んでしまった自分に気がついたとき、そこをさりげなく(スマートに)辞去するタイミングを計りながら、容易にそこを離れることができず失敗することが、多々ある。
ロッタとの恋においてもそうだったのかもしれない。


ウェルテルは、学問も才能もあり、芸術を愛する、一途な情熱家だ。
後々、ロッタをして
「あなたって方は、どうしてまあこんなにはげしく、一度手をつけたことならなんにでも、どうしてこう情熱的にしつこくなさるのでしょうね」
と言わせるほどに。
悪く言えば、高慢で、視野の狭い青年なのだ。


一方、ロッタのフィアンセ、アルベルトは、沈着冷静な紳士だ。
実際的な考え方をして、責任感も高い。
欠点をあげるなら、ウェルテルとロッタの間にあるような(ウェルテルの言う)「ひとの内側から湧き上がってくる素朴なよろこび」が、たぶんわからないことだろう。


ウェルテルとアルベルトとが(友として)自殺について意見を戦わせる場面が印象的だ。
自殺は愚である、と言い切るアルベルトと、一概にそうとは言えない(状況によっては美しくさえある)、と考えるウェルテル。
二人の若者の、いって帰ってくるほどに違う考え方や性格がはっきり現れていて、興味深いのだが、もしかしたら、すでに、このとき、ウェルテルは、自分の先行きを見ていたのかもしれない。いやいや、ことによったら、ロッタに出会う前から。


最後のロッタへの手紙は、ただもう不快なだけだった。
愛する人にどうしてあのような手紙を遺せるのか。
彼の純愛を疑う。
あんな手紙を受け取った人間は、どうしたらいいのか。
彼が愛していたのは本当にロッタだったのか。自分自身だったのではないか。