『トマトさん』 田中清代

 

トマトさん (こどものとも絵本)

トマトさん (こどものとも絵本)

 

 

なんとまあ。
画面からはみ出しそうな(実際はみ出してる)顔、そして、トマトだもの、赤い赤い。真っ赤な顔。
なんてインパクトのある表紙なのだろう。トマトさん。
(ちなみに、裏表紙は、トマトさんの後ろ姿なのだ)


トマトさんは、トマトの木から、おちる。「どった」とおちるのだ。ずんと大きくて、しっかり実のいった落ち方じゃないか。
落ちたトマトさんは暑くてたまらない。すぐ近くにある小川で泳ぎたいが、からだが重くて転がることもできないのだ。
そこで、虫たちトカゲたちが手伝ってくれて……
というお話である。


このトマトさんのずっしりとした存在感。
比べて、ひょろっとしたトカゲたちは、華奢で、おもわず笑っちゃうほどかわいらしい。浮き輪なんかつけてて。色も淡くて、こちらはこちらで、トマトさんと逆方向のインパクトがある。


わたしは、この絵本のページをめくるたび、いつトマトを食べるのだろう(食べたい)とそればっかりかんがえていた。だって、こんなに大きくて重そうで真っ赤で、ほんとにおいしそう。
ところが、トマトさんは、お友だちといっしょに水遊びして、仲良くお昼寝しちゃうのだ。
あれあれ。
その顔見ると、ああ、これは、知ってる顔だよ。ページをふりかえってみれば、トマトさんは、あの子の顔になり、この子の顔になる。
はちきれんばかりに元気で、ぷくぷくのほっぺの、真っ赤な顔している。
かわいくなんて描かれていない。むしろ憎々しいような、強情っぱりで、きかんきな顔じゃないの。
だけど、その表情がありのまま、そのままで、かわいくて、かわいくて。
おいしそうなトマトのにおいよりも、こどものいい匂いがしてくる。
しあわせそうな寝顔(罪のない顔よ)みながら、
「気持ちがいいね。いっぱいあそんだね、楽しかったね」と声かけたくなる。