『消えた犬と野原の魔法』 フィリパ・ピアス/ヘレン・クレイグ(絵) / さくまゆみこ(訳)

 

消えた犬と野原の魔法 (児童書)

消えた犬と野原の魔法 (児童書)

 

 

これはほんとうのお話なんだけど、あるところにウィルとナットという兄弟がいた。二人のおばあちゃんは、一方は「トムは真夜中の庭で」などの児童文学作家のフィリパ・ピアスで、もう一方は「アンジェリーナ」シリーズなどで知られる絵本画家のヘレン・クレイグだった。
あるとき。おばあちゃんたちは一緒に、二人の孫のために本を作りたいと考えた。
そして、フィリパ・ピアスはお話を作った。ヘレン・クレイグの挿絵ができあがるまで、ピアスは生きて待ってはいられなかったけれど、クレイグと、ピアスの娘(ナットとウィルの母)サリーが、二人して献辞を書いた。
この本は、そういう本だ。


さて、主人公の男の子ティルは、あるとき、ガマーさんのはらっぱに散歩に行く途中、愛犬ベスを見失ってしまう。かなしんでいるティルのもとに、奇妙な小さいおじいさんが現れて、一緒にベスをさがしてくれることになった。
おじいさんは「もの」を仲立ちにして、物言えぬ動物たちに伝言を伝えたり、自分の姿を消したりできる、不思議な人だった。
おじいさんの助けを借りて、ベスの手がかりを、ティルは追いかける。ベスはみつかるだろうか。


主人公の男の子の名前ティルは、ピアスとクレイグの二人の孫ナットとウィルの名前を合わせたもの。
物語には、ともにガマーさんという二人のおばあさんが出てくる。
年上のガマーさんはティルにいわせれば「魔女みたい」な人。本がいっぱいある家に住み、ひとりごとを言ったり、ネコや鶏に話しかけたりしている。
年下のガマーさんは物語の挿絵を描いている。ネズミがおかしなことをしている絵(もちろんバレエを踊る女の子ネズミの絵もたくさんあるにちがいない!)がいっぱいある。
つまり、ふたりのガマーさんって……


読みながらふと思う。もしかしたら、家族だけがわかって「ふふっ」と思わずほほえんでしまう符丁がまだまだ文章や絵のなかに隠されているのではないだろうか、と。
ほとんどのページをめくるごとに現れる鉛筆と水彩の挿絵がとても美しい。
この絵のなかでお茶したい。昼寝したい。