『ぼくは本を読んでいる。』 ひこ・田中

 

ぼくは本を読んでいる。

ぼくは本を読んでいる。

 

 

ルカの家には本部屋がある。
五年生になった日、ルカは、滅多に入らない本部屋で、古い五冊の本をみつける。
この五冊だけが、他の本から離れた場所にあって、そのためにかえって存在感をかきたてたこと、
五冊だけが(ほかの本とは異なって)紙のカバーで表紙が隠されていたこと、
一冊開いてみれば、それは古い児童書で、どうも父母いずれかが小学生のころ読んでいた本らしい、と思ったこと、
などが、ルカをひきつけた。
ルカは、普段、進んで本を読むような子ではないけれど、本をこっそり自分の部屋に持ち帰り、読み始めた。
何日もかけて読んでいく。


物語は、この日から七日間のできごとだ。
七日め、ルカが二冊の本を読み終えて三冊目を読み始めたところで、物語は終わる。
でも、ルカがみつけた本は五冊あったのだ。
残りの本は、何の本だろう。ルカはどんなふうに読んでいくのだろうか。
この続き、知りたいなあ……


そう思ったのは、ルカが、本を読みながら考えるあれこれを読むのが楽しかったから。
本はどれも、よく知られている児童文学の名作であるから、それを読むルカの気持ちが、読者のわたしにも、よくわかる。
わかるだけではなくて、その本を無性に読みたくなってくる。
ルカが本を読み進めるのを追いかけていると、こちらの気持ちも、共感から、発見や驚きに変わってくる。
ルカの読みは、七日間で、どんどん進化・深化していた。


本好きな友だちカズサとの弾むような「本」談義も素敵だった。
互いの言葉を頼りに、一冊の本のより深いところに、ともに潜っていくよう。
本を読むって、とってもアクティブで、わくわくする冒険じゃないか。


本の中の世界は、現実の生活とつながっている。
ほやほやの小学五年生、家でも外でもいろいろある。
学校のなかにも、通学路のまわりにも、よく知っているつもりなのに、行ったことのない場所がたくさんある。
きっと、よく知っているひととのつきあいも、そうなのだ。
本の中の主人公たちに心寄せているうちに、日々のできごとと重なることがある。
本を読んでいる時に、その日あったことが浮かんできて「あ、あれはこういうことじゃないかな」とか、
「あのときのあれはちょっと違うんじゃないかな」とか思い至ることもある。
本の世界と現実の世界が、行きつ戻りつ、からまりあって、成長しつつあるルカを静かに支えている感じがいい。