『いちばん好きなのはス○カ!』 朽木祥(文)/ささめやゆき(絵)(『家の光』2018年08月号:「親と子の童話」より)

いちばん好きなのはス○カ! 朽木祥(文)/ささめやゆき(絵)
家の光 2018年08月号
発行所:JAグループ 一般社団法人家の光協会 / 発行日:2018年7月1日


家族がずっと定期購読しているJAの『家の光』だけれど、届く日が、これほどに待ち遠しかったことは未だ嘗てなかった。
朽木祥さん×ささめやゆきさんの童話が8月号に載る!と聞いて、ずっと楽しみにしていたのだ。


イカを巡る(?)「ぼく」と、「ぼく」のうちの犬ダンの、絵日記みたいなお話である。
短さ故の一点豪華主義のおはなしである、とも思う。


タイトルにある「ス○カ」は、ダン向けの暗号である。
「大好きな言葉が聞こえると、遠くにいてもピューッととんでくる」かしこいダンがそばにいては、家族は、うっかりそのものの名前を言うこともできないのだ。
だから、ダンにわからないように、用心して言い方を工夫する。
ダンは、スイカが大好物なのだ。


短いお話であるが、くっきりと印象に残る場面がある。
それは、どうってことがない、と言えば、どうってことのない光景である。
でも、黙って抱きしめたくなる光景なのだ。
夜。そこにダンがいる。
抱きしめたいと思うのは、犬のダンそのものではなくて、ダンがいる光景全体なのだ。
ううん、抱きしめたいのではない。その光景を、そのままずっと見ていたい、と思う。そっとしておきたいと思う。
その光景は、犬の性格の良さも無邪気さも、一途さも、およそ、犬であることの美徳(と私は勝手に思っている)の全部だ。
犬って賢いな、と思う。
それは、たとえば最初にぼくがいうように「人間の言葉を三十語くらいはわかる」ってこともあるのだろうけれど、
人の尺度とは別の、犬だけが生まれつき持ち合わせているような賢さであるような気がする。
言葉にできないけれど、その姿と、その周りの空気までも巻き込んだ賢さ。
それを目にしたとき、わたしたちは、はっと気がつくのだ。
そうして、人間はどうしたって彼らにはかなわない、と半ば畏れ入ってしまう。
だから、「あしたは、いっしょに、いっぱい食べよう」という「ぼく」に、うんうんと頷く。


*「家の光」はJAで購入できます。(617円)