『日曜の午後はミステリ作家とお茶を』 ロバート・ロプンステイ

日曜の午後はミステリ作家とお茶を (創元推理文庫)

日曜の午後はミステリ作家とお茶を (創元推理文庫)


ミステリ作家シャンクスを探偵役にしたミステリ短編が14話も。
「事件を解決するのは警察だ。ぼくは話をつくるだけ」と言い言いしているシャンクスであるけれど・・・
シャンクスの目の前を通り過ぎていく、(私などから見たら)どうってことのない風景や人の行き来、会話などに、彼はふと立ち止まる。
そして、小説のプロットが立ち上がるように、どうってことのないはずのそれらの事象が、一つの意味に向かって動き始めるのだ。
それは、今起こりつつある窃盗や詐欺のの現場、あるいは、殺人事件や盗難事件の犯人の姿などを、浮彫にしてしまう。
かくして、事件が解決する。


この作品集、メインの事件だけが、ミステリではない。
登場人物のそのときどきのご機嫌や顔色に注意したい。
ほんの脇役だし、「つまり彼・彼女はそういうキャラなのね」とさらりと通り過ぎてしまったその人物が、そのとき、どうして、そういう態度をとっていたのか、あとになって気がつくことがある。
あ、なるほど、そんなことを考えていたのか、と思った瞬間、脇役は、印象的な人物となる。
メインの事件とは関係ないのだけれどね。


もひとつ、メインの事件だけが、ミステリではない、といえば、全編にちりばめられたキイワードがある。
『マルタの鷹』をご存知だろうか(私はご存知じゃなかった)
訳者あとがきで知ったのだが、『マルタの鷹』に関わるあれこれが、さりげなく文章に混ぜ込まれているそうである。(人名やら事件やら、単語やら・・・)
『マルタの鷹』の初版本がそのまま登場する作品もある。
これは、知っている人は、どこに何が隠されているかなと探したくなる、かなり楽しい趣向なのではないか。
(こうしてみてくると、作者、あと何を(さりげなく)作中に隠した?と疑いの目で眺めてしまう。)


シャンクスのお友だち作家たちの薀蓄話、シャンクスとその妻にしてロマンス作家のコーラとのやりとりなど、くすっと笑わされる部分がもりだくさん。
犯罪があちらにもこちらにものミステリであるのに、気持ちの良い読後感は、この夫婦の掛け合いの絶妙さのせいもある。
それから、登場人物たち(犯罪者含めて)、愛すべき人びとだったよな、と読み終えることができることにもある。
日曜の午後、おいしいお茶を一杯ゆっくり飲みながら一作、そして、「ああ、おいしかった」(お茶が?ミステリが?)と本を閉じる。
14もの短編ミステリが入ったこの本、日曜のたびに、たっぷりお茶を飲めます。