『ケイゾウさんは四月がきらいです。』 市川宣子(作)/さとうあや(絵)

ケイゾウさんは四月がきらいです。 (福音館創作童話シリーズ)

ケイゾウさんは四月がきらいです。 (福音館創作童話シリーズ)


ケイゾウさんってだれ?
ケイゾウさんは幼稚園の庭の鳥小屋に住むにわとり。
ケイゾウさんが、四月はきらいだというわけは、小さい組「ほしぐみ」に入ったばかりの子があちこちで泣いていたり、
大きい組「つきぐみ」になったばかりの子たちがしょっちゅうケイゾウさんの世話を忘れるからなのだ。
でも、今年の四月は特にきらい。
なぜなら、ケイゾウさんの家に、うさぎのみみこが一緒に住むことになり、きゅうくつになったから。
白くてふかふかのみみこは、こどもたちの人気者。ときどき子どもたちがくれるエサは全部みみこにいってしまう。


かわいい見た目にも関わらず、マイペースでなんだか要領がよい(というか肝が据わっているというか)みみこに、不器用な頑固者のケイゾウさんはふりまわされてばかりいる。
ケイゾウさんは、みみこなんかいなくなっちゃえばいい、と思っている。
やることなすこと、かちんとくるし、いちいち気になっていらいらする。
でも。このふたりの関係、緩急というか、なんだかいいのだ。
ほんとはどっちもどっち、かわいくないふたりなのだけれど、いっしょにいると、ふたりそろって憎めない。
なにしろ、ともにしょっちゅうエサを忘れられるし、子どもたちの善意(?)でえらい目にあわされたりするし・・・
苦労しているふたりなんだよねえ。


読んでいると、ふわふわと笑顔になってくる。
ようちえんの子どもたちにとって、ケイゾウさんやみみこは、園のごきげんな遊び仲間なのだ。
遠足や運動会もいっしょだし、お泊り会も節分の豆まきもそれとなくいっしょだし、
姿がみえなくなれば、みんなそろって、隣の林までもさがしにいくし、ね。
つきぐみの担任ももこ先生は大変そうだけれど。読み終えてふりかえれば、ももこ先生、いつも急ぎ足。「ケイゾウさんちょっと待っててね」「あんたたちっ、なにやってんの!!」
先生の怒鳴り声は馬耳東風、聞こえないとかえって淋しくなっちゃうくらい、のびやかに過ごす子どもたちはきっと幸せ。いいなあ、なんだか温かいなあと思う。


幼稚園の一年が、この本一冊でぐるり巡る。
ケイゾウさん、四月がきらいだけれど、三月もきらいだって。それから、みみこが・・・。だって。
そしてわたしは、ももこ先生とケイゾウさんとみみこのいる、この幼稚園がすっかり好きになっちゃった。