『オレゴンの旅』 ラスカル(文)/ルイ・ジョス(絵)

 

オレゴンの旅

オレゴンの旅

 

オレゴンは、サーカスのくまで、道化のデュークのともだちだった。
あるときオレゴンはデュークに頼む。
「ねえデューク、ぼくを大きな森まで連れてっておくれ。」


ふたりは闇夜の晩に出発する。
「よぶんな荷物などいらないし、ポケットをふくらませるカギも、もういらない。」
大きな森は遠い。
見返しいっぱいに、アメリカ合衆国の地図があり、二人の旅の道筋が記されている。
ニューヨーク、ピッツバーグ、シカゴ、アイオワ、プラット川を渡り、ロッキー山脈を越える。そしてオレゴン
アメリカ横断の旅。
おしろいを塗った顔のまんなかにまるい赤い鼻をつけたデュークと、大きなくまのオレゴン
ふたり、バスに乗り、モーテルに泊まり、歩いたりヒッチハイクをしたり、走っている貨車にとびのって、旅を続ける。


美しい絵本だ。
各ページに広がるアメリカのさまざまな表情を映した絵は、沁み入るようだ。
ただ、絵だけを眺めながら、目でアメリカを渡って行くこともできる。
静かな旅だ。
表紙にもなっている一面の麦畑がことに心に残る。
「ヴァン・ゴッホの光景のなか」と書かれている。
音もないのに、音が聞こえる。風の音が聞こえる。
デュークの赤い髪が風になびく。


だけど、どのページも、風景のなかでの二人の表情はいつも寂しそうだ。
その表情は、サーカスを離れてもとれない赤い鼻と関係があるのかもしれない。
オレゴンの首には、もしかしたら見えない鎖がまだあるのかもしれない。
その表情のせいで、余計に風景の美しさが沁みるのだろう。


どきっとするのは、ヒッチハイクさせてくれたスパイクとデュークとの会話。
「何であんた、赤いハナつけておしろいぬってるんだね」
「顔にくっついてとれないんだ。小人やってるのも楽じゃないんだよ」
スパイクは答えて言う。
「じゃあね、世界一でかい国で黒人やってるのは、楽だと思うかい」


トウモロコシ畑でたらふく食べたこと。川のおふろ、鳥の目覚まし時計。
ポケットに残っていた二枚の硬貨はプラット川で水きり遊びをするのに使った。
ある夜をすごさせてくれた廃車はデュークが生まれた年に作られたものだった。


長い長い旅だったね。
季節も変わっていく。


旅の終わりに気がついたことがある。
サーカスのくまにつけられていた鎖と、赤いハナは、たぶん同じものだ。
ほんとうの自分自身のものではない。
デュークにはデュークの、オレゴンにはオレゴンの森がある。
ふたりとも、これから自分の本当の旅が始まる。くまはくまの場所で、人は人の顔で。