『東京のちいさな美術館めぐり』 浦島茂世

 

東京のちいさな美術館めぐり

東京のちいさな美術館めぐり

 

「東京周辺には、人の心を打つ、小さな美術館がたくさんあります」と「はじめに」に書かれている。そのなかからよりすぐって、展示内容や建物に個性を感じられる場所が紹介されている。
よりすぐりの小さな図書館がこんなにたくさん(106館!)ある、なんてわくわくすることか。
小さいからこそ、それぞれの美術館の個性が際立つ。その美術館ならではのこだわり、その由来や、創立者の人物像、周辺の景色までが見所なのだ。

美術の教科書に必ず載るような芸術家の作品がこんなに静かな環境で鑑賞できるのかと驚くような美術館、文学者や漫画家の充実した個人美術館もあるし、映像美術、アクセサリー、塗り絵、切手、ガラスの本の博物館などなどユニークな展示の美術館もある。

著名な建築家による、建物こそこの上ない展示品のような美術館もある。
たとえば、ロートレックやルドンなどの名画が充実した三菱一号館美術館は、建築家ジョサイア・コンドルの原設計に基づいて復元したという、明治期の東京丸の内の栄華をしのばせる美しい洋館。
ステンドグラス調の窓から自然光が降り注ぐホールを中心にして、あちこちに見どころたっぷりの自由学園明日館は、フランク・ロイド・ライトの設計だ。
多くの美術館を手掛けた建築家・渡辺仁によって建てられた原美術館は、もとは実業家の私邸だった。モダニスム様式をとりいれて、カーブが美しい階段など、ちょっとシュールで楽しそうだ。

かわいらしいなあ、と思う美術館もある。
アゲハ蝶やアリや熊蜂のオブジェなど、細かな仕掛けにワクワクする豊島区立熊谷守一美術館。
和の建物の中に美しい宇宙を秘めている三鷹市星と森と絵本の家。
表紙の写真にもなっている深沢小さな美術館は、いまだ未完成、進化の様子も楽しみな美術館。

ほっとするのは、民家風の美術館。
まずは、日本民芸館の生活の道具たちの美しさに引き込まれる。「用の美」という言葉が清々しい。
山の版画家として知られる畔地梅太郎のアトリエを改装したギャラリー、あとりえ・う。草花に覆われたアプローチの先に民家風の建物が見える、そのたたずまい、行ったことがないのに、懐かしい、と感じる。
世田谷美術館分館向井潤吉アトリエ館は、洋画家向井潤吉の住居兼アトリエを改装したもので、こちらも、黒と白が際立つ民家風のたたずまい、庭との調和も美しい。

庭の美しさなら、東京庭園美術館林芙美子記念館、永青文庫。ぜひ訪れてみたい。
庭がそのまま広い公園になっている、小金井市立はけの森美術館や、調布市武者小路実篤記念館、どちらも居心地よさそうだ。

この本の小さな美術館の一館一館が、じっくり味わいたい宝ものみたいだ。
そして、これら美術館を抱きこんだ東京というまちが、そのまま巨大な美術館、と思えてくる。