『オープン・シティ』 テジュ・コール

オープン・シティ (新潮クレスト・ブックス)

オープン・シティ (新潮クレスト・ブックス)


オープン・シティとは、無防備都市という意味なのだそうだ。戦力を持たない都市。
ブリュッセルは、第二次大戦下、侵略してきた軍に降伏、交渉をし、街は爆撃を受けることなく生きのこったのだという。


語り手ジュリアスは散歩者だ。
散歩中に見えるもの、出会う人、そして、去来する思いに、心開き、風景が寄せてくるままにしているジュリアスを、この無防備都市になぞらえたのだろう。


でも、ジュリアスは、人(歴史や民族や風景や)に対して、受け入れの間口は広いけれど、入ってすぐのところに、壁を作っているように思える。
その壁の内側には誰もいれない。そして、自分も、相手に対して「あなたの場所にもそれ以上は入らないよ」という境界線を作っているように見える。
この壁は、なんなのだろう。その奥が見えないことが不気味にさえ感じられる。
彼は、人と付き合うことよりも、人を景色のように眺めることの方が得意な人なのだろうか。


歩きながら眺める風景は好きだけれど、なかには、立ち止まらないと理解できない風景もあるし、ゆっくり眺めたい風景もあるのに、と思いながら読んでいた。
そこからくる欲求不満が、この語り手に感じる不快感の正体なのかな、あるいは単に読み手の偏見かな。
そう思って読んでいたのだ。ほんとうに。


「歩く」のはよい。とりとめのないのもよい。
のんびりと読めそうな散歩本、と思って手にとった本だったが、これは当てが外れた。
・・・この「散歩」はやさしいものではない。
もう一度読み直したなら、この物語は、最初に読んだ時とは全く違う景色を見せるはずだ。
無防備都市という言葉に騙されてはいけなかった。