9月の読書

9月の読書メーター
読んだ本の数:10
読んだページ数:3832

風の向こうへ駆け抜けろ (小学館文庫)風の向こうへ駆け抜けろ (小学館文庫)感想
競馬は汚い。そして、地方競馬は斜陽でどん詰まりだという。「馬と心中してもいいと思う世話役たちが作る馬が、金と設備とシステムで作られた馬を凌ぐことがあるのではないか」との言葉は、藻屑の漂着先のアウトローならでは。馬とともに若い騎手が、不快な風を突き破って駆け抜けていくのを感じる。わたしは、瑞穂の耳になり、馬の声を聞いたような気がした。


読了日:09月29日 著者:古内 一絵
職業としての小説家 (Switch library)職業としての小説家 (Switch library)感想
村上春樹、どこから手をつけたらいいのかわからなかった私には、ありがたい村上春樹の入り口だった。「世界はつまらなそうに見えて、実に多くの魅力的な、謎めいた原石に満ちています。小説家というのは、それを見出す目を持ち合わせた人々のことです。」…それを分けてもらう読者であることは、幸せなことだと思う。私は、もっともっと本が読みたい。


読了日:09月28日 著者:村上春樹
わたしの本当の子どもたち (創元SF文庫)わたしの本当の子どもたち (創元SF文庫)感想
設定はSFであるが、二人の聡明な女性の人生の物語のように思う。女性であること、LGBTQであることへの差別・偏見への抵抗の物語でもあったと思う。彼女たち(あえて「たち」)は、それぞれの人生を精一杯に生きてきた。人一倍誠実で、精力的な人生だったじゃないか。そうした人生のおしまいには、同じ静けさが待っている、というのは感慨深い。

読了日:09月24日 著者:ジョー・ウォルトン
座敷童子の代理人 (メディアワークス文庫)座敷童子の代理人 (メディアワークス文庫)感想
読むほどに、旅館の関係者たち(人も妖怪・神様)も、個性的で素敵なファミリーに思えてくる。だけど、この平和なファミリーのどこに、疫病神はいるのだろう・・・エピローグまでしっかり読んで、あっ、あっ、あっ、と声を出す。そうなの、タイトルの『座敷童子代理人』ってそういうことだったんだねって。そして、別れがたくなります、迷家荘と。



読了日:09月20日 著者:仁科裕貴
帰還兵はなぜ自殺するのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)帰還兵はなぜ自殺するのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)感想
帰還兵はなぜ自殺するのか。この「なぜ」に答えはない。「終わりのない罪悪感。私が理解できる唯一の理由はそれです」たくさんの人々が、今も見えない敵に脅かされながら、一日一日をやり過ごしている。彼らの戦争はいつ終わるのだろう。いつか終わるのだろうか。彼らは戦場から帰ってきたのだ。「しかし戦争が終わって三年が経っても、彼らはいまだに戦場にいて、戦争をしている。」



読了日:09月17日 著者:デイヴィッド・フィンケル
身の上話身の上話感想
本を読みながら最初にイメージした登場人物たちの顔の造作が、読めば読むほどぼんやりとした霧に変わっていくような不気味さを味わう。最後まで「人を見誤っていた」と感じることをやめられないままだったが、最後の「感じ」が、読書中ずっと想像していたのとはずいぶん違うものであることに驚く。その驚きが、静かに余韻へと変わる。



読了日:09月16日 著者:佐藤 正午
子らと妻を骨にして―原爆でうばわれた幸せな家族の記憶 (KanKanComics)子らと妻を骨にして―原爆でうばわれた幸せな家族の記憶 (KanKanComics)感想
取り上げられている松尾あつゆきの俳句は、どれも、胸つかれるようなものばかり。ことに忘れられないのは「光が雪の雫が、此子ゆき子と名づけようかとも」末娘の誕生に詠まれた句。そのようにして、この世にやってきた命はわずか七カ月後に無残に奪われる。長崎原爆の死者は7万4909人。その一つ一つが、光や雪の雫に祝福された命なのだ。この句の美しさが、あまりにも悲しい。



読了日:09月15日 著者:奈華 よしこ
すべての美しい馬 (ハヤカワepi文庫)すべての美しい馬 (ハヤカワepi文庫)感想
素晴らしいのは、馬と少年の関係。少年が馬の肌をなで、たたき、言葉をかけるとき、安らかな馬の体温や息遣いが伝わってくるよう。出会った人や馬が群像になり一瞬一瞬が、牧歌的ともいえる絵になって浮かび上がる。かけがえのない美しいもの、善いものが、ぽつりと胸に留まる。そう思うのは深い悲しみや痛みが伴う物語だからだ。逃げ場のない寂しさと隣り合わせだからだ。


読了日:09月13日 著者:コーマック マッカーシー
アメリカーナアメリカーナ感想
このおとぎ話は、一筋縄ではいかない。足元から、たくさんのリアルが芽をふき、雑草のように勢いよく伸びてくる。その勢いに、おとぎ話が色あせてしまうほど。人種についてのリアル、帰国後の祖国への思いなど、心に残る。イフェメルが、自分の髪が大好きと感じる瞬間の描写、廃屋の屋根の上の孔雀の描写などが好き。


読了日:09月08日 著者:チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ
猫の手、貸します 猫の手屋繁盛記 (集英社文庫)猫の手、貸します 猫の手屋繁盛記 (集英社文庫)感想
そもそも、人間の背丈のねこが袴をはいて二足歩行し、ヒトの言葉を話すのだ。なんで?と驚くよりも、まずは、そのやわらかそうな耳さわらせろ、肉球の匂いをかがせろ。気持ちのよいお節介が飛び交うこの界隈は確かに住み心地がよさそうだ。短編三つ。ささやかな事件が、ほのぼのと起こり、ほのぼのと納まる。ささやかなのが良いです。

読了日:09月02日 著者:かたやま 和華

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