『座敷童子の代理人』 仁科裕貴


作家生命(?)崖っぷちの妖怪作家、緒方司貴は、原稿を書くため、遠野の旅館に逗留する。幼い頃に宿泊したことのある旅館である。
その旅館の名は迷家荘。座敷童子が現れることで有名な旅館であったが、数年前に火災にあい、その後、すっかりさびれてしまった。
司貴は、道に迷い、迷家荘の裏の童子神社で不思議な少年に出会う。
彼は、旅館がさびれたのは疫病神の仕業だといい、それを探すのを手伝って呉れないか、と司貴に頼むのだ。


迷家荘は、昔から、妖怪や神様たちが宿る旅館でもあった。
宿の人々は、実際に自分の目で見ることは出来なくても、見えないお客様を見えないまま、大切にもてなしてきたのであった。
司貴は・・・しかし、なぜか、ヒトの見えないものが見えてしまうのである。
童子、河童や二股しっぽの狐と、司貴とのやり取りが楽しい。
彼は、旅館の中居の和紗さんと妖怪たちの仲介役でもある。そうして、旅館で起こるちょっと困った事件を、妖怪たちの助けを借りながら(貸しながら)解決していく。
妖怪がらみではあるけれど、れっきとした日常のミステリだ(と思うよ、だいたい^^)
事件は解決する。なあんだ、そういうことだったのか、と思う。
いやいや、問題は「何が起こったか」「何がみつかったか」という、形あるものではないのだ、とすぐに気づかされる。
そこにからまって離れない、忘れられそうなもの、目に見えないものを掬い上げれば、おもいがけない景色が見えてくるのだ。


読むほどに、旅館の関係者たちが(人も妖怪・神様も)個性的で素敵なファミリーに思えてくる。
だけど、この平和なファミリーのどこに、疫病神はいるのだろう・・・
エピローグまで読んで、あっ、あっ、あっ、と声を出す。
そうなの、タイトルの『座敷童子代理人』ってそういうことだったんだねって。
そして、別れがたくなります、迷家荘と。