5月の読書

5月の読書メーター
読んだ本の数:12
読んだページ数:3977

セント・メリーのリボン (光文社文庫)セント・メリーのリボン (光文社文庫)感想
力あるものが、横暴にふるまう世の中で、細々と暮らす貧しい人たちの姿に光があてられる。せめて、物語の中だけでも、こんなことがあったらいいね、と思うような物語五つ。登場人物の濃さもふくめて、ハードボイルドなおとぎ話、と呼びたい。好きなのは、『花見川の要塞』で、この物語は、『みどりのゆび』の大砲から咲きだした花々のような物語と思う。

読了日:05月31日 著者:稲見 一良
南ポルトガルの笑う犬―アルファローバの木の下で南ポルトガルの笑う犬―アルファローバの木の下で感想
主にこの町で出会った友人たちの物語であるが、彼らの後ろには、笑顔で控えている犬の姿が見える。著者と友人たちを紹介し、縁をとりもつ気のいい仲人のような犬の顔が。友人たちの「いろんなことを背負ってきた」背中についての話に共感しつつ、著者はいう。「とにもかくにも、私は幸せにならなくてはならない」 「幸せ」という言葉が、特別な言葉みたいに感じた。

読了日:05月29日 著者:青目 海
少し湿った場所少し湿った場所感想
人の暮らしも、町も、明るく清潔、機能的で便利になってくると、ことさらに、ざらついた場所、薄暗い場所が恋しくなる。薄闇は、煌々と明るい場所にはない豊かさがひっそりと息づいている。子どもの頃の「私の書斎」の話、渋谷川の暗渠の話など、心に残る。

読了日:05月27日 著者:稲葉真弓
ビリー・リンの永遠の一日 (新潮クレスト・ブックス)ビリー・リンの永遠の一日 (新潮クレスト・ブックス)感想
歓迎の人々とブラボーたちとの交流は、異星人同士のよう。語り合えば語り合うほど、笑い合えば笑い合うほど、彼らの頭の中に、藁かおがくずがどんどん押し込まれていくように見えて仕方がない。この後、もしも戦地に戻らずにすむなら…。でも、もしもはないのだろう。そう思ってぞっとする。こうした思いが多くのビリーたちを追いつめるための武器になっているようだ。

読了日:05月25日 著者:ベン ファウンテン
ウィル・グレイソン、ウィル・グレイソン (STAMP BOOKS)ウィル・グレイソン、ウィル・グレイソン (STAMP BOOKS)感想
少年たちの、誰かを大切に思う気持ちはとてもひたむきで、もう、そうした姿を見せてくれただけで、ありがとうだなあ、と思う。誰かを大切に思う気持ちそのものが大切で、相手が異性だろうが同性だろうが、そんなことはどうでもいいんだなあ。そして、自分の物語を語る、ということは大きな意味があると感じた。

読了日:05月21日 著者:ジョン・グリーン,デイヴィッド・レヴィサン
ブローティガン 東京日記 (平凡社ライブラリー)ブローティガン 東京日記 (平凡社ライブラリー)感想
詩というよりも、ラフなスケッチのよう。ブローディガンは風景を見るように人を眺めていたのではないか。日本で、彼は寂しがっているように感じる。その頃、外国人に出会うことが私たちには珍しかった。どうしてよいかわからなかった。そのために、あなたを寂しがらせ失望させてしまったか。でも、きっとそれだけではなかったよね。献辞は「ぼくの日本の妹」と呼ぶ人に。

読了日:05月15日 著者:リチャード ブローティガン
アンダー、サンダー、テンダー (新しい韓国の文学)アンダー、サンダー、テンダー (新しい韓国の文学)感想
ストーリーはあるし、大きな盛り上がりもある。そうした盛り上がりから外れた場所にある、ちょっとしたことが、大切な場面になって蘇ってくる。スミの襟の汚れ、ソンイが編んでいたマフラー。バスの中のそれぞれの席。「君にはわからないよ」にこもる優しい断定。この300ページの、エピソードの寄せ集めが、彼らが、その時そこに確かにいたのだという愛おしい「あかし」だ。

読了日:05月13日 著者:チョン セラン
命の意味 命のしるし (世の中への扉)命の意味 命のしるし (世の中への扉)感想
それぞれがそれぞれの立ち位置(物語の世界、野生動物医療の世界)から、お互いの姿を確認し合いながら、補完しあいながら、命について語るとき、それは、人間の社会に、そして私たち一人一人に繋がっていく。私たちは生まれてきた。そして必ず死んでいく。その間、留まるこの世界で一体何をしようとしているのか。

読了日:05月11日 著者:上橋 菜穂子,齊藤 慶輔
オはオオタカのオオはオオタカのオ感想
癒しの方法として、連想するのは、穏やかなもの、やさしい言葉であり、静かな時間だけれども、著者は、最初からそうしたものを遠ざける。彼女は一度はオオタカになり切り、それから、人は鷹ではないのだ、ということを認めるに至る。人ではないものを、ありのままに受け入れ、その生き方を尊重する。このような猛々しい癒しの道もあるのだ。

読了日:05月09日 著者:ヘレン・マクドナルド
ラスト・ウィンター・マーダー (創元推理文庫)ラスト・ウィンター・マーダー (創元推理文庫)感想
猟奇的で残酷な場面が続くけれど、その分、まるで反動みたいに、少年たちのピュアさが引き立つ物語だった。凄まじい物語で、いったいどこに行きつくのか、彼(ら)はどうなってしまうのだろうと、ずっとハラハラしっぱなし。――あの子はいい子だよ――どこからでもいい。その言葉をずっと待っていたと思う。この本の献辞に「皮肉ながら両親に」とあることが印象的だった。

読了日:05月06日 著者:バリー・ライガ
殺人者たちの王 (創元推理文庫)殺人者たちの王 (創元推理文庫)感想
まるで本のプールに潜水して、一気に泳ぎ切ったような気分。最後の一行を読み終えて、水の上に顔を出して、はあっと息をついているところなのだ。そして、急いで、もう一度、潜らなければ、と思っている。ぐずぐずしているわけにはいけないのだ。あっちもそっちもこっちも、絶対絶命だらけだし、そもそも「これ」がいったい何なのか、ちゃんと説明してもらわなくちゃ。

読了日:05月05日 著者:バリー・ライガ
アラバマ物語アラバマ物語感想
法を守る、ということについて、守らない、ということについて。わかったような、わからないような、やっぱりわからない・・・ただ・・・どうっと流れていく川の流れの合間に、小さな美しいものが川底にきらり光って、また見えなくなっていく。その小さいものを損なわないように、見失わないようにしたい。心に残るのは、モッキングバードをそっとしておく人々の美しさ。

読了日:05月01日 著者:ハーパー・リー,菊池 重三郎,Harper Lee

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