『殺人者たちの王』 バリー・ライガ

殺人者たちの王 (創元推理文庫)

殺人者たちの王 (創元推理文庫)


『さよなら、シリアルキラー』三部作の二作目です。
ジャスパー・デントは、アメリカの田舎町ロボズ・ノッドに住む17歳の高校生で、史上最悪の連続殺人鬼ビリー・デントを父に持つ。
その父により、幼いころから殺人の英才教育を受けてきたという異色の経歴の持ち主なのだ。


ジャズは、前作『さよなら、シリアルキラー』での連続殺人事件解決に果たした功績を見込まれ、ニューヨーク市警の刑事から「力を貸してほしい」と、ニューヨークに招聘される。
ニューヨークでは、しばらく前から、通称ハット・ドッグ・キラーによる連続殺人が続いていたのだった。


覚悟はしていたのだけれど、冒頭からいきなりショッキングな猟奇的場面を見せられて気持ちは萎える・・・
が、気がつけば、あっというまに物語に引きこまれていた。
主人公ジャスパーと親友のハウイー、ガールフレンドのコニ―、三人の若さの眩しさのせいだ。
法の縛り、保身、常識、周囲への配慮などが邪魔して動きの鈍い大人たちを尻目に、しがらみから自由な若者たちが大胆に動く。
ただ、大切な人を守りたい助けたい、それだけで一途に突っ走る伸びやかな姿は、叫びだしたいくらいに危なっかしくて、時々ほんとに要らぬお世話だったりもするのだけれど。


前作を読み終えたときに、「なんとまあ、大きな引き出しをひっくり返してくれたことよ」と思ったものだが、今思えば、そのひっくり返し方が慎ましく感じられるほど、こんがらがったこの巻。
不可解で不愉快な事件はあっちでこっちで起こる。それはまるっきり関係なさそうに見えて、実は(やっぱり)きわめて密接に結びついているみたいなのだ。
また、一つだと思っていた物が、左右に、上下に、だぶってみえてきたりして、かなり入り組んでいる。
展開が早い。前作より相当に加速している。


鮮やかに事件の正体を解いてみせてくれたジャスパー。まるで、一枚の絵を上のほうから俯瞰しているみたいで、ああ、ものごとをこういうふうに眺めることができるのか、と感心したものだった。
しかし・・・

>おおジャスパー、哀れなジャスパー。ゲームの一部しか見えていない。さまざまなゲームがあることを知らない。すべてのプレイヤーにとってのゲームがあることを。
これは一体どういうことだろ。


夢中で、読んだ。読み終えた。
まるで本のプールに潜水して、一気に泳ぎ切ったような気分の読書だった。最後の一行(あの一行!)を読み終えて、水の上に顔を出して、はあっと息をついているところなのだ。
そして、急いで、もう一度、潜らなければ、と思っている。
ぐずぐずしているわけにはいけないのだ。あっちもそっちもこっちも・・・絶対絶命だらけだし、そもそも、「これ」はいったい何なのか、ちゃんと説明してもらわなくちゃ。