『私が死んでもレシピは残る 小林カツ代伝』 中原一歩

私が死んでもレシピは残る 小林カツ代伝

私が死んでもレシピは残る 小林カツ代伝


料理研究家小林カツ代さんのレシピは、毎日の食卓やお弁当箱の中で、これが小林カツ代さんの、とはっきりと言えないくらいに、あたりまえに家庭料理の定番になっているのだ、と思う。
どんな料理と合わせても、違和感なくまざりあってくれる、ちっとも特別に見えないのに、ほんとうにおいしい料理ばかりだった。
カツ代さんのおかげで、わが家の食卓もどんなに豊かになっただろう。


カツ代さんはレシピも残してくれたけれど、名言ともいえるような言葉もたくさん残してくれた。
この本にはそうした言葉がたくさん出てくる。
たとえば、「家庭料理はレストランの料理に引けを取らない確立した分野である」など。


わたしには、「おいしい料理を作ることは大切だが、それよりも、おいしく食べることのほうが何倍も大切だ」という言葉がことさらに心に残った。
「おいしく食べる」ために料理をするのだ。
小林カツ代さんには、たくさんの時短料理のレシピがあるけれど、時短であっても「手抜きをしたことは一度もない」という。
それは、「おいしく食べる」ために料理を作るのだ、という前提があったからこその言葉だったのだ、と頷く。
おいしく食べよう。おいしいものを作ろう。おいしいものを作ることはこんなにも楽しいのだ。
たとえば、冷凍食品を利用しても、市販のソースを利用したとしても。


「カツ代は人一倍『いのち』を大切にする人だった」と著者は書く。
「だからこそ、カツ代は台所から社会問題を提起し、時には厳しい叱責もいとわなかったのだろう」と。
「いのち」は、この本のあちらからもこちらからも、いろいろな形で、いろいろなエピソードとともに浮かび上がってくる。
料理すること食べることは命に繋がる。
小林カツ代さんのレシピの根底に流れているのはきっとそういう思いなのだ。