『もりのてがみ』 片山令子/片山健

もりのてがみ (こどものとも傑作集)

もりのてがみ (こどものとも傑作集)


寒い寒い冬、外で遊べない時、ひろこさんは、ストーブのそばで、夏のあいだ一緒に過ごしたともだちに手紙を書きます。
ともだちは、りす、とかげ、ことりたち、のうさぎ、もみの木。


ひろこさんが手紙を書くテーブルの上には、ノートの切れ端、はさみやのり、カラーペンなどなどが散らばります。
余白に、絵が描きこまれた手作りのびんせん。
形のさまざまな封筒にはカラーペンで描かれた宛名がわりの絵。
友だちとの夏の思い出にちなんだ絵柄の切手、消印のスタンプまで押してある。
眺めていると、笑みが浮かんできます。


それぞれに宛てた手紙は、一つ一つ物語があります。
ひろこさんと友だちと過ごした夏の思い出のエピソードなのです。
豊かな森の匂いがしてきそう。


見開きいっぱいに広がった制作途上の手紙や、おまけのこまごましたものたち。
それらを丁寧に仕上げていく製作過程もひとつの物語になっているのだと感じて、ひろこさんの凝った仕事にわくわくします。


各手紙の結びの言葉はきまっています。
「すみれがさいたら このもみのきのしたでまっています」
ちょこんと添えられた小さな紫色のすみれの花の絵が、友だちに差しのべられた指切りげんまんのマークみたい。


ひろこさんは、手紙が一通、仕上がるたびに、森のもみの木にさげに行くのです。
モミの木の豊かな大きな枝に守られて手紙がゆれる。
クリスマスツリーみたいに。
・・・森の友達は読んでくれるかな。返事をくれるかな。


片山令子さんと片山健さんのコンビが描く「子ども」が好きです。
そのページに描かれているのが、たとえほんのちょっとだけ覗く手の先だけだとしても、その向こうに、こどもの表情が見える気がするし、肌のぬくもり、匂い、息遣いまで感じる。
この子は、私のよく知っている子。そして、ここにあるのは、守られるべき「こどもがひとりでいるじかん」


我が家のまわりにも、スミレが咲き始めました。
スミレが咲き始めると、この絵本を読みたくなります。