- 作者: ローズマリ・サトクリフ,猪熊葉子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1985/05/30
- メディア: 単行本
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ローマン・ブリテン3部作などの作者、ロースマリ・サトクリフの自伝です。
お母さんから、沢山のおはなしを聞いて大きくなった人だった。
同じ物語を何度も繰り返し聞くことが好きだった。
サトクリフの子ども時代のエピソードを読んでいると、すっかり忘れていた自分の子どもの頃が蘇ってきます。
たとえば、友達と二人、夢中になったごっこ遊びのこと。
魔法にかかったようにその世界の住人になりきって遊んでいた二人。ある日突然に、魔法の効き目が切れてしまったことに気が付いたときの深い悲しみを「二人の少女の幾分かがその時に失われ、かつての二人は、失われた国の戸口のむこうに取り残されたのだ」と書いている。
子ども時代(それぞれの情景とそれに伴う感情と)をこれほどに鮮やかに覚えていること、再現してみせてくれることに、驚いてしまう。
障がいのこと。
サトクリフは、幼い頃、難病にかかり、以来、足が不自由だった。
実際、入退院を繰り返したこと、狭い世界に育たざるを得なかったことは書かれているけれど、
大抵の場面で、私は、彼女の足が不自由であることを忘れていた。
彼女は伸びやかに生活している。
彼女を傷つけたのは、「障がい」を持っているという事実よりも、「障がい者」に対する周囲の気遣いではなかったか。
母親の愛情と密着はあまりに重たかった。
彼女を心配する父の態度については、「父は私には傷つけられる権利のあることがわかっていなかった」と言っている。
彼ら(障がいを持つ子ども)はほかの子どもたちにできるある種のことが、自分にはできないことを知っています(中略)間もなく、あまりにも早く、彼らは社会の中には普通の人びとと自分たちとをへだてる微妙な壁があることに気づきます。やがてその事実にはどういう意味が含まれているかを明らかにさとり、それが自分の人生におよぼす影響、つまりは孤独を知るに至ります「壁」ってなんだろう。
壁は障がいとは関係ない。それなのに、どうして壁ができるのだろう。
先日読んだ『へろへろ』(鹿子裕文)の一文「人は施設に入った途端、まるで社会から姿を消したように「見えない存在」になってしまう」を思い出すのだ。
自分には理解できない人たちを囲い、見えない存在にしてしまうものが、「壁」のように思う。
犬たちの話も印象に残っている。
一緒に暮らしたのは六カ月だったけれど、よい相棒だった二頭の犬のこと。
一頭が死んでしまうと、残された方は、その死を理解できず、何日も相棒を探し求めたそうだ。
突然はっとして、嬉しそうに、すでに何度も探した場所に一目散に飛んで行き、あげく、しょんぼりと戻ってくる様子など、その情景が鮮やかに浮かんできて、切ない。