『さよなら、シリアルキラー』 バリー・ライガ

さよなら、シリアルキラー (創元推理文庫)

さよなら、シリアルキラー (創元推理文庫)


空き地で他殺死体が発見された。
高校三年生のジャズは、現場の様相から、これは連続殺人だと確信する。
なぜなら、ジャズの父は、21世紀最悪の連続殺人鬼ビリー・デント(六年前に逮捕された)だから。
そして、ジャズは、父によって、家業(!)の後継者として、幼い時から殺人鬼としての英才教育を受けてきたのだから――


この作品を手に取ったきっかけは、スピンオフ作品『運のいい日』を先に読んだため。
登場人物たちの横顔を垣間見て、彼らのことをもっと知りたくなってしまったのだ。
ジャズ、親友のハウイー、ガールフレンドのコニー、保安官のG・ウィリアム。
素敵なあなたたちにまた会えて嬉しいよ。


殺人鬼の父のもと、ジャズが過ごした幼年期は、想像の域を超える。
父から離れて六年も経つのに、彼は、過去から追いかけてくる父の影に苦しみ、絶えず呼びかけてくる父の声を振り払うことができない。
自分は決して父のようにはならないという思いは、父のようになってしまうのではないか、むしろ本当はなりたがっているのではないか、との不安の裏返しだ。
父の胸で泣きじゃくる幼い日のジャズの姿と、「人を拷問して殺す殺人鬼でも、父は父であり、生物学的な本能のせいか、やっぱりそばにいると安心できた」という回想は、どんな猟奇的な場面よりもずっと残酷だ。
ショッキングな設定にもかかわらず、ジャズの思いは特殊なものではない。
感じるのは、苦い共感だ。これは、きっと「(心の中の)親殺し」の物語なのだ。


ジャズの母の思い出は、彼の無残な子ども時代の思い出の中で、唯一「よいもの」だった。
その母は幼い日に消えてしまった。
コニーはある日、こんな風に言う。「お母さんに置いていかれたから、だからジャズは怒ってる」
ジャズにとって、そして読んでいる私にとっても、これは思いがけない言葉だった。
彼が自分の人生を生きていくための大きなカギは、この「母の不在」なのかもしれない。「父の存在」以上に。
そんな気がする。


事件は解決するが…
なんとまあ、大きな引き出しをひっくり返してくれたことよ、と思う。
これは三部作の一作目だもの、二作目に繋がる何かがあるはず、とは思ったけれど、これ!
続きが気になって仕方がない!