『アリスのうさぎ』 斉藤洋


図書館の児童読書相談コーナーにすわるバイトの青年のもとに、ぽつぽつと不思議な体験を聞いてもらいに来る人がいる。
幽霊話、ともいうほどの不思議でもない。
もしかして夢見ていたんじゃないの?と聞かれたら、そうかもしれない、と言ってしまいそうなささやかな話。
だから、この体験をどのように整理したらいいか、わからないで、ちょっともやもやしているのだ。


とはいえ、語られる四つの物語は、決して「ほのぼの」という感じでもない。
四つとも、不思議のテイストがすべて違うのだけれど、それぞれの物語には、何らかの無念さが凝っている。
そして、語る人は、ほんとうは無関係の筈の人。ただ居合わせた、ただ巻き込まれてしまった。迷惑な、というには人が好過ぎる・・・彼ら、何かに選ばれたのかな?
そんなふうだから、ここに来て、とにかく話すことができたことに、ほっとして、少しだけよい顔をして帰っていけるのだろう。
なぜ、どうして、の疑問が解けるわけではないけれど、幽霊たち(?)もここで話してもらうことを喜んでいるのかもしれない。


図書館の雰囲気が好きだから、装丁の絵の図書館をみながら、くつろいでしまう。
棚の本たちが、人々のふしぎの話を鷹揚に受け、黙って棚に同居させてくれているのかな、と思ったり。
そして、このバイト青年、児童読書相談以上に、人に不思議体験を語りたい気持ちにさせる人なのだ。
本人、気が付いていないみたいだけれど・・・彼もまたしっかり選ばれているのかも。