『きびしい冬』 レーモン・クノー

きびしい冬 (レーモン・クノー・コレクション)

きびしい冬 (レーモン・クノー・コレクション)


第一次世界大戦のさなかのパリ。
ベルナール・ルアモーは、愛したものすべて失っている。前線の厳しさも知っている。
そして、時局について考えることはあるけれど、それは当時の社会ではほとんど異端に近く、簡単に口にすることもできない。
ルアモーは、孤独だ。


彼は、大尉であるけれど、今は足を負傷して戻ってきているのだ。やがて足は治る。それまでの間はいわば長い休暇といえるかもしれない。
毎日何をするでもなくて町をぶらついている。
本当はいろいろな事件が起こっている。思わず「え?」と問い返しそうになることもあり、動揺する。
でも、それらは、ルアモーを置きざりにしてぐんぐん遠ざかっていくように見える。ルアモーは静かだ。淀んで静か。
この時局の重たい空気のせいだろうか。出来事は緩慢に流れていくように思える。だるい。だるさの間から低く鈍痛のようなものが滲みでる。


彼は女性たちに出会い、心惹かれ、近づくことを望んでいるが、同時に離れることも望んでいるように感じた。
どの女性たちとの未来も、立ち塞がれている。
この閉塞感に竿さすのは、一人の少女の存在だろう。
恋愛未満の、まだ大人ともいえないような少女の姿が、鮮やかに心に焼き付く。
ゴミ溜めのような環境、下卑た言葉、汚れたものを纏い、なんということもなくいる少女。
でも、内側からちらちらと覗いて見えるものは、眩しく清らかな何者かなのだ。
籠った空気を洗い流すような、おおらかさを感じる。


だけど、これはやっぱり長い休暇の物語だ。苦い休暇の。
ルアモーはまた前線に戻るだろう。
美しいものをみつけたとしても、大切なものをみつけたとしても、それはどこにもつながってはいない。
抱きしめても抱きしめても、抱きれないのだということを強く意識させられる。
夢の物語なのかもしれない。目覚めたら酷い現実に向き合うしかないことを知りながら見ている夢のよう。