11月の読書

2016年11月の読書メーター
読んだ本の数:11冊
読んだページ数:2980ページ
ナイス数:200ナイス

馬を愛した男馬を愛した男感想
描かれているのは、何気ない日常の瞬間だけれど、私なら、その瞬間に立ち止まりはしない。こだわりはしない。でも、ここで立ち止まり、ここにこだわると、そうか、風景がこんなふうに見えるのか、と驚く。実際に会ったら敬遠しそうな人ばかりだったのに、その人の見ている風景の側から逆にその人を眺めたら、なにかの結晶のような繊細な美しさが透けてくるよう。
読了日:11月29日 著者:黒田絵美子,TESSGALLAGHER,テス・ギャラガー
火打ち箱 (こんなアンデルセン知ってた?)火打ち箱 (こんなアンデルセン知ってた?)感想
主人公の兵隊は高潔でも正直者でもない。そして、因果応報もない。迎える大団円は、ハッピーをかすめ取ったハピーエンドという気がして、ちっともハッピーな気がしない。お姫様はデストピアの模範的住民のように、幸せな人に思える。ダークな童話、と思ったけれど、どういう背景で書かれたのか、気になる童話です。
読了日:11月27日 著者:赤木かん子,H.C.アンデルセン,高野文子
火打箱火打箱感想
この世界のあまりの暗さ、閉塞感に、気が滅入る。でも、火打箱、魔女、人狼、そして、大きな陰謀…闇に灯された灯りのような赤いマントと赤い髪。いつのまにか夢中になって読んでいた。何かが起こったときに、あの時もしも〜だったら、と悔やむ事はよくあるけれど、その「もしも」の存在さえも完全に遮る果てしない闇がある。旅の終わりのオチに、声をなくした。
読了日:11月26日 著者:サリー・ガードナー
河岸忘日抄 (新潮文庫)河岸忘日抄 (新潮文庫)感想
心に残る言葉はたくさんあって、その都度たちどまり、その意味を考えている。そのなかのひとつ、トライアスロンをする人の「弱さが必要なの〜満遍なくできて、全部強くても、面白くないの」がことに印象に残る。 作品中に現れる名作たちが、「彼」の物語に編み込まれて全く新しい音楽を奏で始めるようで面白い。ゆっくり読むべき本。何度も繰り返し読みたい本、と思う。
読了日:11月24日 著者:堀江敏幸
カリオストロ伯爵夫人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)カリオストロ伯爵夫人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
二人の女性の存在が、ラウールの、二面性の表れのようにも感じられておもしろい。良きにつけ悪しきにつけ、「怪盗ルパン」の片鱗を垣間見ることは楽しい。ひよっこぶりを呆れたり侮ったりしていると、転んでもただでは起きないしたたかさを披露してくれるから、油断できない。20世紀初頭のフランスの町の雰囲気もまた、冒険と同じくらい魅力的。
読了日:11月21日 著者:モーリス・ルブラン
ミスターオレンジミスターオレンジ感想
想像力は両刃の剣なのか? 戦争が起こったのは人の想像力が原因だった。一方で、想像力は、絵の中に、未来のブギウギの聞こえる町を鮮やかに描きだす。ブギウギ(またはそれに匹敵する素晴らしいもの)が聞こえる方向にせっせと想像の世界を広げていくことは戦争に抗う大きな力ではないか。最後に「町中を一枚の大きな絵にできるかもしれない」という言葉が鮮やかに蘇る。
読了日:11月18日 著者:トゥルースマティ
友と書物と (大人の本棚)友と書物と (大人の本棚)感想
著者が本当に好きな本、忘れられない本ばかり、または本の周辺のあれこれ。とても自由。読書の豊かさ、土台となる土壌の豊かさにくらくらする。自分があまりに浅学すぎて、ついて行けていけていないと冷や汗。子どもの読書や、翻訳について語られた部分が心に残る。ゆっくり読めば、お腹の底から温められ、ふつふつと読書の喜びが湧き上がってくる。
読了日:11月16日 著者:吉田健一
にっぽんスズメ歳時記にっぽんスズメ歳時記感想
四季折々のスズメたちの豊かな表情に驚く。「スズメたちのドラマを撮りたい」という中野さとしさんの言葉どおり、この本のスズメたちはそれぞれのドラマを生きている。一瞬のしぐさ、表情は、その時間の前後、奥行きを想像させ、いつまで見ていても見飽きることはない。コラムの、善意の人の(不必要な)野鳥保護が野鳥たちの命を縮めてしまうのだ、という言葉が心に残る。
読了日:11月13日 著者:
ブラインド・マッサージ (エクス・リブリス)ブラインド・マッサージ (エクス・リブリス)感想
マッサージ師たち全員が盲人、という店が舞台で、彼らの日常は見える見えないは関係なし。彼らは彼らなりの器官を使って「見ている」。店の外には健常者の世界があって多数派の驕りに時々不快さになる。私はしばし彼らの仲間だった。しかし最後に「健常者」の中につき返されるのだ。おまえは、その開いた目で、本当に見えているのか? 何を見ているつもりなのだ? と。
読了日:11月11日 著者:畢飛宇
ギリシア神話ギリシア神話感想
子どもの時には不満だった物語の淡白さ(?)が、今の私には好ましい。天高くから地上を俯瞰しているような読み心地。オリュンポスの山よりもはるかに高いところから、世界を見下ろしている。この世界のおおらかさ、美しさに魅了される。神々は気まぐれで嫉妬深いし、人たちはそうした神々に翻弄されながら、逞しく生きている。悲劇さえも、生命の賛歌のようだ。
読了日:11月6日 著者:
怪盗紳士ルパン (ハヤカワ文庫 HM)怪盗紳士ルパン (ハヤカワ文庫 HM)感想
「アルセーヌ・ルパンの逮捕」から始まって、九つもの冒険が収められていて、あらゆる角度から、ルパンの魅力を存分に見せてくれる。しかも、最初に現れたきりすっかり忘れていた「あのこと」を、ぐるり巡った末にまた思いださせてくれる、という粋な計らいになっている。華々しい登場の仕方をしたルパンは、茶目ないたずらを残して消えていく。再会を約するラストが素敵だ。
読了日:11月2日 著者:モーリス・ルブラン

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