『ギリシア神話』 石井桃子(編・訳)

ギリシア神話

ギリシア神話


石井桃子さんが、ギリシア神話(+ホメロス叙事詩)の出来事を取捨選択して、子どものためにできるだけわかりやすいように再話した一冊。
わかりやすいけれど、凛とした気品も感じる。古さ・新しさを超えていく文章のように思う。


昔から、子ども向け(大人向けも?)の「ギリシア神話」の本は、さまざまな出版社からいくつもでていたとおもう。
わたしも、子どもの頃、いろいろな本で、ギリシア神話を読んだのだった。
一冊読むたびに、なにかが足りないと感じた。
きっと私の読んだ本は、何かが抜けているんじゃないか、その抜けたところが別の本には書いてあるんじゃないか、と思った。
誰が何をした、何が起こった、という事柄は書かれているけれど、私が知りたかったのは、その奥行きだった。
その当事者は本当はどう感じたのだろう、周りの人は何をしていたのだろう、なぜそんなことをしたいと思ったのだろう、その後、その人たちはどうしたのだろう・・・


膨らませればすごくおもしろくなるはずの物語のあらすじのよう。神話って(ギリシア神話に限らず)そういうものかもしれない。
行間を読む、とよく言うけれど、読まないではいられない物語になっているのだろう。
だから、人は思うさま想像をたくましくできるし、ギリシア神話から派生したさまざまな物語が生まれ続けるのだろう。


子ども向け、とはいえ、ギリシア神話の本を一冊読んだのは、なんとしばらくぶりだろう。
もしかしたら、子どもの時以来かも。
子どもの時には不満だった物語の淡白さ(?)が、今のわたしには好ましく思える。
オリュンポスの山よりもはるかに高いところから、世界を見下ろしているような気持ちで読んでいる。
時間の流れも(この本の中にある時間は百年、千年、もっと?)一瞬のように見える。
そして、世界のおおらかさ、美しさに魅了される。
神々は気まぐれで嫉妬深いし、人たちはそうした神々に翻弄されながら、逞しく生きている。
悲劇さえも、生命の賛歌のようだ。