『怪盗紳士ルパン』 モーリス・ルブラン

怪盗紳士ルパン (ハヤカワ文庫 HM)

怪盗紳士ルパン (ハヤカワ文庫 HM)


小学生の頃、お小遣いをもらうと、南洋一郎の『怪盗ルパン全集』から一冊づつ買うのが楽しみだった。
このたび、縁あって、何十年ぶりかで、ルパンに再会しました。(再会の機会を与えてくれた読書友さん、ほんとうにありがとうございます)
今、はじめて原作に忠実に翻訳されたルパンを手に取ったわけだけれど、読んでいると、南洋一郎ルパンのあの場面この場面がそっくり蘇ってくる。
南洋一郎版のルパンは、子どもに読みやすいように、いろいろと原作を改変してあったはずだけれど(今は手許に一冊もない)
今の私には、この全訳と、どこがどう違っていたのか、さっぱりわからないのだ。
南洋一郎ルパン、原作をいじっても、物語の大切な骨子や原作の薫りをしっかり伝えてくれていたのだ、と思った。
昔好きだった本のどきどきわくわくを懐かしく思いだしながら、今、「ただいま、ルパン♪」と言いたい。


この本、「アルセーヌ・ルパンの逮捕」から始まって、九つもの冒険が収められていて、あらゆる角度から、ルパンの魅力を存分に見せてくれる。
しかも、最初に現れたきりすっかり忘れていた「あのこと」を、ぐるり巡ったすえにまた思いださせてくれる、という粋な計らいになっている。
華々しい登場の仕方をしたルパンは、茶目ないたずらを残して消えていく。再会を約するラストが印象的だ。


怪盗というよりもスマートな探偵・冒険者の顔のほうがしっくりくるようにも思うが、そうと言い切れるわけでも無い。
彼は、どんな縛りからも自由で、奔放である。既成の正義からさえも。それは、やはり本業が怪盗(紳士)である故なんだろうね。
手並みの鮮やかさには、恐れ入って舌をまく。
一作ごとに、思わずふふっと微笑んでしまうような何かのお土産を読者に残してくれる。
案外目立ちたがり屋で自慢屋だったりする。
黙っていた方がスマートよ、と思うのに、自分の手柄を、たとえば、あの新聞『エコー・ド・フランス』なんかで世間に吹聴しないではいられなかったり。
それが欠点かといえば・・・できすぎ君より、ずっと魅力的ではないか。


忘れかけていた旧友との再会のよう、というか、焼け木杭に火、というか、これはシリーズ全部読まないわけには…と思い始めている。