『生まれるためのガイドブック』 ラモーナ・オースベル

生まれるためのガイドブック (エクス・リブリス)

生まれるためのガイドブック (エクス・リブリス)


十一編の短編が四つのセクションに分かれて並んでいる。それは、『誕生』『妊娠』『受胎』『愛』の四セクション。一続きのテーマを、結果から原因へとたどるように読んでいく。
裏表紙には、「鮮烈にして簡潔、詩情をたたえた11の物語」と書かれています。
詩情? ああ、詩情・・・でも、この詩情はかなり癖があります。
少し冷静になって考えてみれば、「誕生」も「妊娠」も「受胎」も「愛」も、かなりグロテスクなものではないだろうか。


前触れもなしに起こる「それ」に人は驚く。
思春期の少年少女も、老人も、そして働き盛りの大人たちも、この四つの一大事の前では等しく戸惑う。自分のなかで何かが刻々と変わっていくことに。変わっていくのをただ眺めるばかりで、それを止めることも手を貸すこともできないことに。
その驚きを充分咀嚼する前に「おめでとう」という言葉とともに明るいところに押しだされるから、戸惑ってしまうのではないか。
こんなに明るいところで「グロテスク」とか「後ろ暗い」とか、そういう言葉は似合わないような気がして。
おめでとう、の前に、そして光のシャワーの前に、わたしたちは、もう少し暗がりのなかで、押さえきれない原初の感情とじっくり向き合ってみるべきだったのかもしれない。
この変化を受け入れるための、お仕着せではない自分だけの方法がきっとある。それを思いだすまで、待たなければいけなかったのかもしれない。


物語はたぶんに幻想的で、暗がりのほうに口を開けているような気がする。
その奇妙さ、というよりも気味悪さに、眉をひそめつつ、見守り続ければ・・・見えてくる。
何か驚くようなものが誕生しつつあること。やっぱり分別をもって首を横にふるべきだろうか・・・それはできない。ただ茫然と見守っている。だって・・・
暗闇のなかから、混沌のなかから、美しい、と思うようなものが、祈りのようなものが、静かに生まれ出ようとしている。
ほとんど希望と名付けたいものが、何かの形になろうとしている。
その気配への慈しみが湧き上がってくる。もう少しそっと見守っていたい、と思う。


『誕生』『妊娠』『受胎』『愛』・・・そのすべてを「誕生」という言葉がふわっとくるみこんでいるようだ。
わたし、この誕生に立ち会えてよかったよ。