『なんでもないなつの日 〜夏の夕ぐれ』 ウォルター・デ・ラ・メア(詩)/カロリーナ・ラベイ(絵)

なんでもない なつの日 「夏の夕ぐれ」

なんでもない なつの日 「夏の夕ぐれ」


刻一刻・・・。
夕方の時間の情景の移り変わりを、ある農園での小さな事件を追いかけながら、描きだしている。
夕方の事件はゆったりしている。追ったり追われたりも、なんとなく緩やか、のんびりしているように見える。
何も起こらないのと同じくらいのささやかな事件だからだろうか。
黄色の光に包まれているせいだろうか。もうすぐ夕焼けが始まる。


黄色い光は徐々にオレンジに変わっていく。
もうすぐ暗くなるのを、人も動物たちも待って居る。建物や道具たちさえ寛いで見える。
一面の黄色い光に包まれた光景を見ていると、忘れたものを思いだすような、懐かしいような気持ちになってくる。
わたしだって、昨日も一昨日もその前も、こんな一日の終わりを迎えていたはずなのに・・・
その時間を味わうゆとりを、少しだけ忘れていたかもしれない。


今日の夏の日、絵本のなかの農園では、本当はきっと、いろいろあったに違いない。うんと忙しかったかもしれないし、びっくりするような問題も起こったかもしれない。
そんな一日も、もうすぐ終わり。良く働いた・・・疲労感さえ心地よい。
夕焼けに染め上げられながら、穏やかに一日を終える幸せ。
「なんでもない なつの日がくれる」
なんでもない日はこんなにも美しい。なんでもない日は、こんなにもかけがえがない。
そういう感覚をしみじみととりもどす。
一面の夕焼けに包まれているこの一家の暮らしを眺めながら。