7月の読書

2016年7月の読書メーター
読んだ本の数:15冊
読んだページ数:3161ページ


子どもの本棚八月号 No.574 2016子どもの本棚八月号 No.574 2016感想
『物語で体験する「普通」の人々の戦争』繁内理恵:とりあげられているのは、パウゼヴァング『片手の郵便配達人』。物語の「普通の人々」に寄せる慈しみを、理恵さんは丁寧に掬う。そのうえで「普通」がもつもう一つの面を示す。「普通」の隣にある暗闇、「普通」は無色、という言葉、心に強く響いた。普通の日々がかけがえがないからこそ直視しなければならないと思う。
読了日:7月30日 著者:日本子どもの本研究会


ハングルへの旅ハングルへの旅感想
徹底的に母国語を奪われ続けた国の人たちは言葉がどれほど大切な宝であるか深く知っている。「私たちの言葉を習ってくれて、ありがとう」にも「(ハングルではなく)日本語を話しなさいよ!」にも。「言葉」は、本当は何を身内に湛えているのだろう、と読みながらしみじみ考えている。「言葉」は、その民族の歴史でもある。脈々と伝えられる思いの連なり。
読了日:7月28日 著者:茨木のり子
カフカの友と20の物語カフカの友と20の物語感想
ユダヤ共同体の物語であるとともに人間たちみんなの物語でもある。いろいろな人間たちのいろいろな片隅を覗いたような気がする。世界はある一点を境にして、たちまち反転するのだ。いろいろな方向に、思いがけない風景に向かって。そして、今まで気がつかなかったもう一つの物語があらわれるのに驚く。『息子』『鍵』『ベーベル博士』『そこに何かいる』が心に残る。
読了日:7月24日 著者:アイザック・B.シンガー
アマゾン・アマゾン (たくさんのふしぎ傑作集)アマゾン・アマゾン (たくさんのふしぎ傑作集)感想
魚をとり畑をつくり自給自足する暮らし。家族助け合うのが当たり前の子どもたちの屈託の無い笑顔。巨大な風景のように川を渡って近づいてくる暗雲。極彩色の昆虫。森の営みと人の営みとが、まるで一つの生き物のように調和している。ひたすらに今を生きている。夕焼けの川に浮かぶ子供たちのシルエットが眩しい。でも私はここでは暮らせないなあ、と思うとちょっと寂しい。
読了日:7月21日 著者:今森光彦
風の靴 (講談社文庫)風の靴 (講談社文庫)感想
大好きな本が文庫になった。こちらはタイトルのロゴが白抜きで、小さな本らしく軽くなった。文庫だもの、バッグに入れてどこにでも連れていけそうなのが嬉しい。この本を読むたびに、本の中のきらめきを浴び、経験したこともないその時間を共有した気持ちになる。わたしのなかのきらめきにになる。わたしのなかの大切な時間になる。
読了日:7月18日 著者:朽木祥
IN★POCKET 2016年 7月号IN★POCKET 2016年 7月号感想
『風の靴』文庫化にともなう朽木祥さんの「もうひとつのあとがき」――『きらめくような夏の日』を読みたくて。「そんなとき、心の内に大切にしまった時間が、少年を――私たちを支えることがあるのではないかと思う」とのエッセイの一文から、たちまち『風の靴』のよい風が蘇ってきた。思わず胸いっぱいに吸い込みたくなる風。波に揺れる日の光。きらきらきらきら・・・
読了日:7月18日 著者:
日本児童文学 2016年 08 月号 [雑誌]日本児童文学 2016年 08 月号 [雑誌]感想
『八重ねえちゃん』朽木祥: 聞こえないふり・見ないふりをするのが賢いことであった時代に、素朴だけれど正直であった八重ねえちゃん。聞こえないふり、見ないふりの怖さが、重たくのしかかってくる。物語の終わりのほうの綾子の問いかけに、どう答えることができるだろう。それにしても、これはいつの話をしているのだろう、と思ってぞっとしてしまう。
読了日:7月17日 著者:
土星の環―イギリス行脚 (ゼーバルト・コレクション)土星の環―イギリス行脚 (ゼーバルト・コレクション)感想
これは旅行記。でも、ただの旅行記ではない。「私」の立つ地、訪ねる地には、空間、時間を超えて、見える景色がある。イギリスの町や海岸と、この世のあらゆる場所との光景が、混ざり合う旅。繁栄する街と廃墟とをともに眺める。繁栄の内に瓦礫の山を見ている。廃墟のうちに命の流れるのを見ている。難しいけれど、生も死も逆をいくものではないのかもしれない。
読了日:7月15日 著者:W.G.ゼーバルト
七十二歳の卒業制作 学ぶこと、書くこと、生きること (創作童話シリーズ)七十二歳の卒業制作 学ぶこと、書くこと、生きること (創作童話シリーズ)感想
なぜ進学するのか、何を学ぶか、何のために…十代なら、きっとどこかで考えてみるにちがいない。しかし六十代・七十代には、五十年間待たされた学びには、全く違う意味があるのだ、と思う。それも紆余曲折ありすぎの七十代には。「気がすんだ」という言葉は、この作者だからこその言葉で、この作者だからこそのこの言葉は、とても大きい。よいものをいただきました。感謝。
読了日:7月13日 著者:田村せい子
わんぱく天国わんぱく天国感想
遊び方は違うけれどそんな日々があったよなあ、と懐かしく思いだす。駆け回る子どもたちの姿を追いかけるのは楽しい。ずっと彼らの時間をこのまま閉じ込めておけたらいいのに。昭和十×年の子どもたちである。彼らの行く末が切ない。…本当は、何十年後かに、みんな元気に集まって、あの日のことをさかなに盃をくみかわすことができたらよかったのに。
読了日:7月10日 著者:佐藤さとる,岡本順
マグノリアの花 珠玉短編集 (フィギュール彩 62)マグノリアの花 珠玉短編集 (フィギュール彩 62)感想
彼らは、奴隷を祖先に持つ人びとで、今も暮らし向きがよいとはいえない。彼らの中からあふれてくる喜びや夢、愛、そして、希望(希望などありようのないところにも!)は、驚異的だ。他の人々にはわからない、見えない、聞こえない、形のないすばらしいものを、彼らは生まれながらに所有しているのだ。彼らの集まりの隅っこに座れたら幸せだろう、と思いながら読んでいた。
読了日:7月9日 著者:ゾラ・ニール・ハーストン
屋根裏の仏さま (新潮クレスト・ブックス)屋根裏の仏さま (新潮クレスト・ブックス)感想
あまりに特別な体験をした人たちの塊を「わたしたち」と称することで、多くの人たちのなかから、一人ひとりを際立たせる。そして、いつでも私は「わたしたち」の中にいて、「彼ら」の一人になりうる。「わたしたち」が消えて「彼ら」が「わたしたち」になり、ずっと前からずっと「わたしたち」であったような気がしている、この物語の静かで不気味な終章を私は覚えておこう。
読了日:7月7日 著者:ジュリーオオツカ
狩猟文学マスターピース (大人の本棚)狩猟文学マスターピース (大人の本棚)感想
「狩猟文学」という言葉に感じる偏見が恥ずかしくなった。わたしはこの本全体から森、原野、鹿や熊、カリブーの群れを感じる。感じつつ、不用意に踏み込めない結界のようなものも感じた。人間も自然の一部であること。狩る事狩られる事。そして、食うこと食われることをともに受け入れること。そんなことを思いながら、本から吹いてくるエネルギーを浴びている。
読了日:7月5日 著者:服部文祥
砂浜砂浜感想
夏休みを海で遊び倒す子どもたちの姿が目の前にありありと浮かび上がって、眩しい。周囲の大人たちのおおらかな見守り。日々を遊び倒す彼らの夏は、期間限定。子どもの頃ただ空気のように吸い込んでいたリアルが、大人になった時、そこに非リアルが混じっていたことに気がついたり。最後の場面が幻想的で美しい。じき大人になる子の、少年の日が静かに沈んでいくよう。
読了日:7月3日 著者:佐藤雅彦
軋む心 (エクス・リブリス)軋む心 (エクス・リブリス)感想
ある出来事一つ取り出しても、あるいは、ある人物の印象一つとりだしても、二十一人にはそれぞれ別の見方がある。別の人間の別の言葉で読むうちに、一人ひとりの彫りが深くなっていくのを感じる。重たい雲に押しつぶされたような村だと思ったが、読み終えた今、この共同体のバランスの重心が別の方向に移されたように感じている。別のバランスがあることを感じている。
読了日:7月1日 著者:ドナル・ライアン

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