『マグノリアの花』  ゾラ・ニール・ハーストン

マグノリアの花 珠玉短編集 (フィギュール彩)

マグノリアの花 珠玉短編集 (フィギュール彩)


見えてくる、アメリカ南部の風景。
夏のかんかんと照りつける太陽、踊る木漏れ日や、音を立てて流れていく川。
南部に住むアフリカ系アメリカ人たちの生活を描く短編集である。
彼らは、奴隷を祖先に持つ人びとで、今も決して暮らし向きがよいとはいえない。
相変わらず白人たちは彼らの上に立っている。
思い通りにならないことはなんと多いことだろう。


彼らはそれらをそっくりそのまま受容して誇り高く顔をあげる。
彼らは夢を見る、一途に人を愛する。潰えてしまっても、やめずに。
彼らの中からあふれてくる喜びや夢、愛、そして、希望(希望などありようのないところにも!)は、驚異的だ。


この地で黒い肌に生まれ、生きていくことは限りなく続く理不尽を耐えることでもあるだろう、と思うのだけれど、
他の人々にはきっとわからない、見えない、聞こえない、形のないすばらしいものを、彼らは生まれながらに所有しているのだ。
それが、民話になったり、歌になったり、風になったりして、吹き寄せてくる。
川が流れるように笑い、踊る。


そして、人々(彼らを低い地位に甘んじさせ、彼らより上の生活をする人びと)は、その源流を理解できないにもかかわらず、彼らの顔や姿、踊りなどに現れるものに、心動かされるのだ。
たとえば生きることにつかれた白人の婦人が、一人の少女をみていったように。
「この子のなかの日の光が少しでも私の魂にしみこんでくるといいわ。それが必要なの」
彼らの集まりの隅っこに座れたら幸せだろう、と思いながら読んでいた。