『ブレイクの隣人』 トレイシー・シュヴァリエ

ブレイクの隣人

ブレイクの隣人


18世紀の終わりごろのロンドンが舞台。
というよりも、きっとロンドンが主人公なのだろう。ことに貧しい人々の暮らしをスケッチした作品である。
そう気がつくまでにずいぶん時間がかかった。
ドーセットシャーの村から家族といっしょにロンドンに出てきた13歳の少年ジェムと、生粋のロンドン娘マギーが出会う。
この二人は主人公というよりも案内人なのだ。
わたしは、子どもたちとともにあっちの通り、こっちの通りを歩きまわった。
田舎から出てきた少年の目に新鮮に映るロンドンと、ロンドンしか知らない娘のロンドンとを、両方の立場から案内されて。


貧富の差、若者たちを待ち受ける罠、そして、重労働が強いられる工場勤め。
フランス革命の影響を受けて左右に大きく揺れる町。同調圧力
そのただなかに立つ人としてウィリアム・ブレイクがいる。
「相反する二つの間にあるもの」という言葉が何度も出てくる。ブレイクの言葉として。
そして、「間にあるもの」は即ち、シュヴァリエの描くブレイクその人だ。
相反するものばかりではないか、と思われる町のなか、そのど真ん中に立つ大きな人は、大きいけれど(大きいから)ほとんど見えない。
そうした姿にブレイクを描いている。


ジェムの母と姉がつくっていたボタンが、気になる。繊細な細工物のようなのだけれど、検索してもまったくヒットしなかった。
ドーセットホイール、ブランドフォード・カートホイール、バスケットウィーヴ、オールド・ドーセット、マイツ・アンド・スパングルズ・・・などなど。
どんなものなのか皆目見当がつかないボタン・・・名前の羅列をみながら、登場人物たちの指先を追いながら憧れている。