5月の読書

2016年5月の読書メーター
読んだ本の数:12冊
読んだページ数:3287ページ

十三番目の子 (児童単行本)十三番目の子 (児童単行本)感想
力強い寓話的な物語。美しい物語だった。民話のようだけれど、現代的な物語でもある、と思った。欲望は、生贄を要求するものだ。けれども、そうまでして手に入れたいものはなんだろう。そうして手に入れたものは、本当に幸福につながるのか(つながる、という選択肢がそもそも恐ろしい) 無関心な村人、一番欲しい物を犠牲付きで手に入れた女のその後の不幸が印象に残る。
読了日:5月30日 著者:シヴォーンダウド
ガケ書房の頃ガケ書房の頃感想
ガケ書房セレクトショップ、として紹介されながら、実は「普通の本屋」だったそうだ。ネットで、どんな本でも買える時代に、町の本屋であること、そして「普通の本屋」が、お客から「特別な本屋」と呼ばれるのには、きっと理由がある。「本屋で買った本は、全部お土産だ」という言葉に出会ったとき、これかな、と思った。買い手にとって、なんて嬉しい言葉。
読了日:5月28日 著者:山下賢二
改訳 アウステルリッツ (ゼーバルト・コレクション)改訳 アウステルリッツ (ゼーバルト・コレクション)感想
これはいったいなんなのだろう。アウステルリッツの軌跡はなんなのだろう。人はいったいどこから、「その人」になるのだろう。読むほどに迷路の奥深く踏み込んでいくようだ。巻末に添えられた多和田葉子さんの解説がとても良かった。人にとって言語とは何ものなのか、母語とはいったい何なのか、読み終えて、改めて旅の意味を探し始めたような気持ち。
読了日:5月25日 著者:WGゼーバルト
紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)感想
人が空を仰ぎ、上へ上へと夢中で駆けあがっていく世界で、足元には、ずっと変わることなく存在し続けるものがある。すっかり忘れ果てていても、それはある。簡単にひねりつぶせるようなもの。踏みにじられるようなもの。えも言われぬ美しさで、心を揺さぶりかける。『紙の動物園』『心智五行』『円弧』『文字占い師』が、ことに心に残ります。
読了日:5月22日 著者:ケン・リュウ
陽気なお葬式 (新潮クレスト・ブックス)陽気なお葬式 (新潮クレスト・ブックス)感想
葬式とはどういう儀式だろう。遺された者が故人から贈り物を受け取ることもある。蒸し暑くて、何もかもがハチャメチャだった。しかし、それをハチャメチャと言えることが嬉しくなる。何かが伝染したかな? 美しいものが、別の名の包み紙にくるまれている。中身が大事、というだけではなく、包み紙もとても大切だと思える。
読了日:5月20日 著者:リュドミラ・ウリツカヤ
水はみどろの宮 (福音館文庫)水はみどろの宮 (福音館文庫)感想
野性味あふれ力強い文章。体の底から揺り動かされるような音楽を感じる。と思えば、いきなり激しい怒りにさらされる。力を見せつけられる。野生的なのに、しんとした美しさに満ちている。私たちは、こうした神秘と交信する力を遠いいつか、持っていたのだろうか。今、かの地を、神の使いの動物たちはきっと見守っている。あるいは、見えない風となって駆け巡っている。
読了日:5月17日 著者:石牟礼道子
草原に落ちる影草原に落ちる影感想
思い出の人々を文章に蘇らせながら、思い出のアフリカを浮かび上がらせようとし、アフリカへの憧れと思慕とを描きだしているように感じる。アフリカを去った後、彼女は人々と、ずっと連絡を取り続けていた。そのことが、かえって両者の距離を強調するように感じることもある。変わっていくもの・変わらないものとを見比べながら、両者の圧倒的な距離を感じている。
読了日:5月14日 著者:カーレンブリクセン
夏の葬列 (集英社文庫)夏の葬列 (集英社文庫)感想
重たい、暗い話ばかり。持ち直す気配もない。それなのに、読後に不快感が残らない。なんとなく、そういうことは最初から知っていたような気がしている。知っていたけれど、見ないようにしていた、忘れた振りをしていた。そういうものってある。それが露わになったことが今となっては、いっそ清々しいような気がしている。夏。でも肌に粘りつく暑さはない。さらっとしている。
読了日:5月12日 著者:山川方夫
二つ、三ついいわすれたこと (STAMP BOOKS)二つ、三ついいわすれたこと (STAMP BOOKS)感想
娘たちの自己肯定感の低さに驚くけれど、傍からみたら成功者の彼ら親たちこそ自らを肯定できなくなっているのかもしれない。親たちは上ばかり見過ぎて、ますます渇いてしまっているのではないか、それなのに自分の渇きに気がついていないのではないか。少女たちは文字どおり血を流している。命を絶つしかなかった少女が、生きた少女たちの自立を助けるという事も本当は辛い。
読了日:5月9日 著者:ジョイス・キャロル・オーツ
優しい鬼優しい鬼感想
状況や出来事を霧の中から出して、整理して要約することは、きっとあまり意味がない。色の問題でも暴力の問題でもないのかもしれない。印象的な糸巻きと糸。見えない枷を感じながら生き続ける過酷な旅。彼ら、後の日々、空のかなたに何を見て何を聞いていたのだろう。遺された人びとが口にする「楽園」という言葉の皮肉な響き、予言のようないくつもの寓話が心に残る。
読了日:5月7日 著者:レアード・ハント
わたしの中の遠い夏わたしの中の遠い夏感想
選んだ道と、選ばなかった道と。二つの道の狭間で、道に迷ってしまっているような彼女。いま、二つの道が一つに、溶けあったよう。30年前の夏の日々が、若い人たちの群像が、眩しく美しく印象に残る。あの夏の家に集った七人(八人)のだれを主人公にしても、きっとまったく異なった物語が生まれるような気がする。読めるものなら読んでみたい。
読了日:5月3日 著者:アニカトール
贅沢貧乏 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)贅沢貧乏 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)感想
筋金入りのお嬢さまは、たとえ文無しになっても、筋金入りの「ぜいたく」を知っているものだなあ、と思う。決して真似のできない、心の贅沢。また、高いプライドをもちながら、その姿が、巷では、いかに浮いてみえるか、おもしろおかしく語らって笑う凄さ。自分を笑いとばしながら、それでもびくともゆるがぬお城のようなものが、彼女のなかにはあるような気がする。
読了日:5月1日 著者:森茉莉

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