『贅沢貧乏』 森茉莉

贅沢貧乏 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)

贅沢貧乏 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)


アパートの一間でひとり暮らし、冬は、ベッドの足元に入れた湯たんぽの湯を、日に三回沸かし直して暖をとる。
通帳の残高がなくなったら、出版社に、原稿料の前借を頼みに出向く。
しかし、彼女は、これを貧乏とは呼ばない。(まして、みじめだなんて!)
彼女の贅沢貧乏な暮らしぶりのあでやかさ、見事さへ賞賛をこめて、以前、『摩利のひとりごと』の感想に書いた。


筋金入りのお嬢さまは、たとえ文無しになっても、筋金入りの「ぜいたく」を知っているものだなあ、と思う。
どこがぜいたくか、といえば、心のありかたなのだろう。想像力かもしれない。
アリナミンの空きビンが光を受ける様子を美しいと感動し、飽くことなく味わえるなら、高価な宝石を持つよりも、そういう感性を持って暮らせることのほうが幸せだろう、と、茉莉さんの文章を読みながら思う。


彼女の、もう一つの才能は、たぶん、自分自身をちょっと離れたところから眺めて、笑い飛ばせることだろう。
そんじょそこらのお嬢様とはお嬢様がちがうのだ、というプライドをもちながら、その姿が、巷では、いかに浮いてみえるか、おもしろおかしく語らって笑う。
凄いと思う。
自分を笑いとばしながら、ちっともへこたれない。悪意もない。びくともゆるがぬお城のようなものが、彼女のなかにはあるような気がする。