『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』 くさばみよしみ(編)/中川学(絵)

世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ

世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ


2012年、リオデジャネイロで、環境が悪化した地球の未来について話し合うための国際会議が開かれた。
その折にウルグアイのムヒカ大統領が行ったスピーチを、子ども向けに意訳したものがこの絵本である。
ムヒカ大統領が世界一貧しい大統領だというのは、給料の大半を貧しい人に寄付し、公邸や公用車を使わず質素に暮らしているからだそうだ。


わたしたちは、もっと便利でもっとよいものを手に入れようとして、さまざまなものをつくってきた。そうして世の中はおどろくほど発展してきた。
けれども、もっともっとと、欲が、とまらなくなってしまったのだ。
70憶、80憶の全人類が、今の西洋社会と同じような無駄遣いをつくせるほど、原料は、この世界にはない、とムヒカ大統領はいう。
わたしたちの文明は、幸せになるために発展したのではなかっただろうか、と。


お金をもうけて、ほしいものをたくさん手に入れれば、幸せになれるような気がしたのだ。
幸せってなんだろう。
今生きている私たちのどれほどの人たちが、自信をもって「幸せだ」と言えるだろうか。
幸せになりたい、と思って一生懸命上を向いて努力をしてきた。高い山のてっぺんに立ったら、せめててっぺんに近いところに立ったら、幸せになれる、と思った。
なりふり構わず・・・大切なことは、より速く、より高く、だった。
それはどんな意味があったのだろう。


「わたしたちは発展するためにこの世に生まれてきたのではありません。この惑星に、幸せになろうと思って生まれてきたのです」
「水不足や環境の悪化が、いまある危機の原因ではないのです。ほんとうの原因は、わたしたちがめざしてきた幸せの中身にあるのです」
ムヒカ大統領の訴えは、シンプルだ。そして、どの言葉も、その通りだ。


「貧乏とは、少ししかもっていないことではなく、かぎりなく多くを必要とし、もっともっととほしがることである」
これは、古代の賢人エピクロスセネカアイマラ民族などによって言われてきた言葉なのだそうだ。
つまり、こういうことは、過去何度も言われてきたことなのだ。ムヒカ大統領のスピーチは、新しいものではないということ。
そのたびに人々は、このままではいけないのだ、と猛省し、やがて忘れてしまう・・・そのように繰り返されてきたのだろう。
情けないな。
ひとはなんて貧しいのだろう。「幸せ」をなんて簡単に手放して気がつかずに暮らしていただろう。


自分自身の生き方を少しだけ考えなおしてみたい。
忘れっぽい私ではあるけれど、そう、今までだって、その都度、立ち止まることは立ち止まり、でも結局流されてきた私ではあるけれど。
がつがつした「貧乏」にいつまでもしがみついているのは、いいかげん嫌になっているし。
いままで生きてきたなかで、今ほど、そういう「貧乏」が身に沁みる時期はないものね。


世界でいちばん豊かな大統領のスピーチだった。