『ももとじん 小さな甲斐犬と耳の聴こえない雑種犬』 むらかみかづを

ももとじん 小さな甲斐犬と耳の聴こえない雑種犬

ももとじん 小さな甲斐犬と耳の聴こえない雑種犬


野犬の子、じんは、生まれつき耳が聴こえない。
小さな甲斐犬、ももは、むらかみ家の先住犬で、子犬のじんがきたとき、6歳だった。


聞こえないせいで吠えることを知らない、犬同士のコミュニケーションの取り方もしらない。
それでも、学び方ってあるものだ、教え方ってあるものだ。
誰に指導されたわけでもないのに、その独特の方法で、ももはじんに鳴き方を教え、会話の方法を教え、じんは学ぶのだ。
少し元気がなくなってきていたももが、子犬のじんの世話をし、犬社会のルールを教え、元気になっていく。
つかず離れず、ぴったり息のあった二頭の姿は、写真でみても、美しい。


やがて年老い認知症の兆候を見せるようになったももを今度はじんが気遣う。いたわる。
いまでは、ももの耳も聴こえない。じんはももより大きい。
それこそ誰におそわったわけでもないのに、力のあるものが力のないものをあたりまえに助ける犬の小さな社会に心動かされる。


犬と暮らす喜びは、こういう姿をみるときにあるのかもしれない。
ひとがわすれてしまっている叡智のようなものに触れているのかも。
そうして、ともにいる姿の尊さ。
犬は群れで生きる。人も群れで生きる。どうか私たちもあなたたちの仲間でいさせてほしい。