『ぼくたちの相棒』 ケイト・バンクス&ルパート・シェルドレイク

ぼくたちの相棒

ぼくたちの相棒


親友のキラが引っ越してしまって、この町でひとりぼっちになってしまったジョージ。
大好きな故郷を離れてこの町に引っ越してきたけれど、なじめず、元の家が恋しくてたまらないレスリー
孤独を持て余す寂しい二人が出会ったのは、ある実験を通して。
動物(おもに自分の飼っているペット)についての実験で、ジョージが選んだのは、
ルパード・シェルドレイク博士の研究「犬には飼い主の帰ってくる時間がわかる(その時間にちゃんと待っている)」ことを確認する実験。
いろいろと時間を変えて二十日間、自分の帰る時間と、飼い犬が待って居る時間とを記録して、データをとるのだ。
ジョージと愛犬バート、レスリーと愛犬ビル・ゲイツ、二つのペアが実験を始めることになったのだ。


しかし、二人ともちゃんと知っている。自分の愛犬が自分の帰る時間をわかっていることを。犬と少年とは太い絆で結ばれているから。
実験するまでもなくわかっているのに、なぜ実験する必要があるのだろう、なんのために実験をするのだろう、と少年はふと疑問に思うのだ。


二人の心の動きが繊細に描かれる。
そして、実験を通して、その向こうに見える様々な相棒たち(愛犬、友人、家族、故郷、それから先生)への気持ちが少しずつ変わっていく。変わっていくというか、荒っぽいデッサンに手が加わり、より細密になっていくようだ。
科学が人生を豊かにする。
個人的な実験のはずが、思いがけない繋がりを発見したり、さらなる広がりを予見させることに気づかせてくれる。


子どもたちの実験の中間報告を聞きながら、担任のクローバ―先生は言う。
「実験をしていると、ときどき、さがしていたものとはちがうものを発見することがあります。だから、いつも心を開いていることがだいじなんですね。これは実験だけのことじゃなくて、生活全般についてもいえることだけど」


さらに、この本は「文学」であると同時に「科学」の本だ。
ジョージは、物語のなかで、ほかならぬシェルドレイク博士とメールのやりとりを続ける。
(作中の登場人物と、本物の科学者とがメールのやりとりをする! あとがきによれば、これはフィクションとノンフィクションの「ハイブリッド」と呼ぶ書き方なのだそうだ)
ジョージのどんな質問に対しても(ときどきは答えにくい質問も、突拍子もない質問も)実在のシェルドレイク博士は、丁寧に誠実に答えようと努めてくれる。
このやりとりは、一問一答の『なぜなに読本?』のようなものとは違う。
間違いなく「文学」・・・であると同時にやっぱり「科学」の本である・・・いやいや、両者にそもそも垣根はないのではないだろうか、と今は思っている。
生きていくことも、物語ることも、出会い、別れ、また出会い、これから起こることを楽しみに待つことは、いつも不思議と感動がいっぱいなのだ、と気づかせてくれる。
少年たちの一歩一歩確かめながら前に進もうとする歩き方が愛おしい。