『あらしのあと』 ドラ・ドヨング

あらしのあと (岩波少年文庫)

あらしのあと (岩波少年文庫)


前作『あらしの前』から六年が過ぎていた。
戦争は終わり、オランダは開放された。
しかし、本当に終わったのだろうか・・・


廃墟となった町。麻痺したままの交通機関
人びとの生活は困窮している。
しかし、もっとも大きな打撃を受け、変わってしまったのは人の心だった。
オールトお父さんの言葉を借りれば、
「戦争は、人の心や気もちに病気をもってくる。みんなの考えや、やることが変わってしまう。(中略)ずっとこうふんの時代だったんだ。しかもそのこうふんが、いいこうふんじゃなかった」


たとえば、ルト。「あたしって、まるでパンクした風船みたいだわ。いきなり空気がぬけちゃったのよ。」
たとえば、ピムのように地下に潜って抵抗運動に協力していた少年たち。急激に大人になるしかなかった少年たちが、再び子どもに戻らされた戦後の日々を持て余している。「生活がどんなに退屈で平凡に思われるか」
いろいろな場所でいろいろな形で大切なものを見失った人たちが右往左往する。
やっと平和がもどったのに。やっと季節の美しさを思う存分味わうことができるようになったのに。
戦争は、渦中にも、その前にもあとにも、人びとにとりつき、人びとを変え、不幸にし、なかなか開放しようとはしないのだ。


そうしたなかで、作者が人びとのすぐ隣に置いた芸術の存在に気がつく。(それは、思えば『あらしの前』からちゃんとそこにあった)
芸術は、人から人へと、心に小さな灯をともしていくようだ。